【相場の細道】英国民、右派から左派へ
「イギリスの政府は変わらなくてはならないと、皆さんは明確に意思表示しました。そして、判断として意味があるのは、皆さんによるものだけです。皆さんの怒りと落胆を聞きました。私はこの敗北の責任をとります」(スナク第79代英首相)
2024年7月4日に投開票された英国総選挙(下院定数650)はスターマー党首率いる最大野党・労働党が209議席を増やして411議席の単独過半数を獲得して、14年ぶりの政権交代を実現させた。182議席が、保守党(中道右派)から労働党(中道左派)に転じ、保守党は251減の121議席に落ち込んでいる。
しかし、労働党は211議席増やしたものの、得票率33.7%は2019年の前回総選挙に比べて1.6ポイントしか上がっていない。保守党は、251議席を失い、得票率が20ポイント減の23.7%だったことで、保守党の自滅だった。
6月9日の欧州議会選挙では、右派ポピュリストが躍進し、6月3日のフランス下院選挙(第1回投票)では、極右勢力が躍進、しかし、7月7日の決選投票では、極左勢力が躍進したが、英国民は、中道左派の労働党に議会の過半数を与える決断を下した。
英国民は、2016年6月、保守党政権の下で、ブレグジット(英国の欧州連合からの離脱)を決断したが、最近の世論調査では6割近くが「EU離脱は間違いだった」と答えている。しかし、労働党は、イギリスのEU復帰を訴えてはいないし、将来的な復帰を掲げてもいない。つまりブレクジットを既成事実として受け入れている。
1.保守党の敗北要因
■ジョンソン第77代英首相「パーティーゲート」
2021年末、複数人の集会を政府が禁止したロックダウン期間中にもかかわらず、首相官邸などでパーティーが繰り返し開かれていたことが発覚した。
■トラス第78代英首相「ミニ・バジェット」
2022年9月に就任したトラス第78代英首相は、「ミニ・バジェット」と呼んだ減税計画が英ポンド急落など市場に混乱をもたらしたことから、イギリス史上最短の在任期間45日で辞任した。トラス第78代英首相は、11217票を獲得したが労働党候補が11847票獲得したため、630票差で落選した。
■スナク第79代英首相「選挙時期賭博」
保守党関係者らが総選挙の時期をめぐる賭博に金銭を賭けていたことが相次ぎ発覚した。
2.労働党の公約
・公的医療を提供する国民健康サービス(NHS)の診察について、長期にわたる順番待ちが深刻な問題となっているため、イングランドで毎週4万件の予約診療を増やす。この資金源にするため、納税回避や非定住者の税優遇など「抜け穴」を取り締まる
・小型ボートを使った違法移民の密航を手配する犯罪組織を取り締まるため、国境警備の中心となる機関を新設する
・住宅不足解消のため、関連法を改正し、150万戸の新規物件を新築する。初めて自宅を購入しようとする人に、新築の集合住宅で優先的に購入できるようにする
・教師を新たに6500人増員。私立学校への税優遇廃止を資金源とする