【相場の細道】介入を巡る誤解
「投機による過度な変動があれば、私としては適切に対応していくしかない。介入の回数や頻度に制限はない」(神田財務官)
2024年の本邦通貨当局によるドル売り・円買い介入額は、4月29日と5月2日が9兆7885億円、7月11日が推定約3.5兆円、12日が推定2.1兆円なので、4営業日で合計15.4兆円程度となる。
1.米国財務省の外国為替報告書
米国財務省が米国議会への提出が義務づけられている為替報告書は、競争上の優位性を得るために自国通貨レートを人為的に押し下げている、すなわち、自国通貨安に誘導していると見なされる貿易相手国に圧力をかけることが目的である。
判断基準の3つを満たせば「為替操作国」に認定され、2つならば、「監視対象国」に認定される。
【為替操作国・監視対象国の判断基準】
1)財の対米貿易黒字:150億ドル以上
2)経常黒字額:対国内総生産(GDP)比3%以上
3)過去12カ月の外貨購入(介入):対GDP比2%以上
日本政府による15.4兆円の介入金額は、日本の1-3月の名目国内総生産(GDP)597兆円の2.5%程度だが、市場では、米国財務省の外国為替報告書が為替操作国の基準にしているGDP比2.0%が介入の制約になるのではないか、との誤解があった。
しかし、外国為替報告書は、対米貿易黒字を拡大させるドル買い・自国通貨売り介入を監視していることで、本邦通貨当局によるドル売り・円買い介入は、監視対象外である。
2.国際通貨基金(IMF)自由変動為替相場制度(free floating exchange rate system)
IMFは、為替レートが自由変動(free float)であることの条件として、「1回の介入は3営業日内で、6カ月以内で3回まで」と規定している。
変動為替レートは、「自由変動レート」と「変動レート」に分類されている。
自由変動レートとは、極めて例外的にそして無秩序な市場環境をならすために行われた介入が3営業日を1回とし、6カ月以内にせいぜい3回までにとどまっており、当局がその情報や実施日などを提供してきている場合となっている。
IMFが要求した情報が得られない場合は、「自由変動レート」ではなく、「変動レート」に分類されることになる。
日本政府による4営業日(4月29日、5月2日、7月11日、12日)の介入は、「6カ月以内で3回まで」の自由変動規定を超えている。
神田財務官は2022年は3営業日の介入で「自由変動レート」に順じていたが、2024年は4営業日の介入で「変動レート」に分類されても構わないらしい。
4月16日、エイドリアン国際通貨基金(IMF)金融資本市場局長は、為替の変動が激しい場合には為替市場への介入が「適切になる可能性がある」と述べ、ドル高が進行する中、為替介入を容認した。
4月19日、鈴木財務相と植田日銀総裁は、国際通貨金融委員会(IMFC)で、円安進行を念頭に、「外国為替相場の行き過ぎた動きに対しては適切な対応を取る」との意見を表明した。声明では「為替市場を含めた金融市場における変動の高まり」を指摘し、「過度な変動は望ましくない」との見解が示された。
5月6日、IMF理事会は対日4条協議を終了した、と表明している。