日本語では抽象名詞が主語になることはあまりない。「何が彼女をそうさせたか」という昭和の初めに映画化された戯曲の題名が衝撃的だったのもそのためである。
金田一春彦氏は、日本人には思いつかない表現として、英語の "Success has crowned on my effort." を挙げているが、たしかに、「成功が私の努力に王冠を与えた」などという日本人はいない。「がんばったから、うまくいった」というのが、日本語らしい日本語であろう。
日本語では、名詞はイメージが明確な語に限って、使われるにすぎない。一つには、日本語が膠着語であることにもよるだろう。ヨーロッパ諸語のように主語が動詞の語形を決定する屈折語や、一語一語が孤立している中国語のような孤立語では、文を組み立てないと複雑な内容は伝えられない。
これに対し、名詞を不可欠としない日本語では、動詞だけでけっこう話が通じる。「出たぁ!」といえばお化けか何かであろう。