短編小説『真昼の天使 v 夜の女王/密航者』
リングの上で2人の女レスラー『真昼の天使』と『夜の女王』が睨み合っている。
密航者を この侭 匿い続けるべきかコミュニティーの外へ追放すべきかをレスリングの勝敗で決することになったのである。
真昼の天使:「こんなに沢山の密航者を匿って アンタ達は一体どうする積もり? 素性の分からない密航者が増え続けて元から住んでる人達が不安がってんだけど… だいたい密航者は言葉も片言だし、彼等がが内輪で何を話し合ってんのかも分かんない。 街中を群れて歩くし… とにかく不気味!」
夜の女王:「なにを偉そうに言ってんのさ! アンタ達 真昼の天使だって先住民を追い払って この地に住み着いた密航者の子孫だよね? 旧大陸で迫害されて この地に流れ着いたんでしょ? 彼等と同じだよ」
真昼の天使:「いや、私達の祖先は誰にも邪魔されずにカルヴィニズムの理想郷を建設するために この地に入植し、そして豊かな理想郷を築いた。 あの密航者達とは違う。 彼等は貴女みたいな夜の女王に奴隷のように扱き使われるために危険を冒して密航して来る。」
夜の女王:「そもそも新大陸は あの密航者達の祖先の土地だったんだよね? それを追い払って貴女がた真昼の天使の祖先が横取りしてしまったんでしょ?」
真昼の天使:「あの密航者達には誰にも邪魔されない自分達の祖国がある。 よその国に密航する必要は無い筈よ。」
夜の女王:「仕方ないじゃない。 あの密航者達には貴女がた真昼の天使の祖先のように理想国家を建設するビジョンは無いけど、欲もない。 家族全員が食べて行ければ それで良いという野心の無い人達なんだから。 祖国では それさえも厳しかったから脱出して来た。」
真昼の天使:「『欲も無ければ野心も無い』って密航者達を褒めてる積もりなの? 要するに貴女がた夜の女王にとって使い易い安価で便利な労働力ってことでしょ? それに『欲も無ければ野心も無い。家族全員が食べて行ければ それで良い』ってのは“能力に応じて働き必要に応じて必需品を分配する”共産主義イデオロギーを理想にしてる人達だとも言える。」
夜の女王:「密航者達は勤勉に働き、家族全員が食べて行ければ それで満足してくれる。 私達に自分達の理想を押し付ける野心も無い。『清貧貞潔』という言葉がピッタリの善良な人達なの。 だから単に密航者だからと言って あんな善い人達をコミュニティーから追い出す理由は無い。 そんな ひどいこと出来る訳ない! 貴女がた真昼の天使こそ鬼だわ! 排外主義の狂人ヒットラーかナチ党みたい!」
真昼の天使:「貴女がたの祖先は嘗て綿花畑で黒人奴隷を扱き使ってヨーロッパの貴族のように暮らしていた。 今は綿花畑で働いてた黒人の代わりに安く使える従順な密航者を奴隷みたいに扱き使ってるだけよね? 憲法修正13条を覚えてる? 意に反する苦役や奴隷労働は憲法に違反してるの! 貴女がた夜の女王のやってることは黒人奴隷を扱き使った綿花プランテーションと変わんない! 犯罪よ!」
夜の女王:「何ですって! 私達を奴隷商人みたいに言わないで! 私達は彼等を奴隷船に乗せて連れて来た訳じゃない。 彼等の方から私達 夜の女王の土地に密航して来たの! 密航者達は私達 夜の女王の土地で『勤勉に働いていれば、家族全員が食べて行ける』。 密航者達は それで十分満足してるの! それの何処がいけないの? 何で犯罪になっちゃうの? 憲法修正13条違反になっちゃうの?」