偉大な労作
投稿者 イッパツマン トップ1000レビュアー 投稿日 2009/2/13
形式: 単行本 Amazonで購入
独自の言語を創作した原書の実験コンセプトに忠実なスタイルをとろうとした柳瀬訳は、結果的に読んでさっぱり分からない代物になってしまったのだが、これは元の本がそう書かれているのだから仕方が無いとも言える。
この宮田訳の場合、原書の全体像に関する解説、各センテンスに込められた膨大な固有名詞の可能な限りの説明が行われており、原書にどういうストーリーと情報が込められているかということが、うっすらと見える。これは、柳瀬訳の前で10年間苦しんできた日本の読者にとっては、劇的な前進である。
宮田訳と柳瀬訳を併読しながら読み進めてみて感じたのだが、「意味」に忠実であることに集中した宮田訳は、ジョイス同様「音」にもこだわった柳瀬訳に較べると、実はエクリチュールとしてはかなりギクシャクしている。つまり、宮田訳の方が「分かる」んだけど、逆に宮田訳を通すと柳瀬訳の凄いところが際立つということに気がついた。でも、宮田氏の解説無しで柳瀬訳が読み通せるかというと、まず不可能です。
本気で読みたい人は、この宮田訳から読むことを強くオススメします。そして、じっくり時間をかけて、言語実験の迷宮を楽しんでください。
> 柳瀬訳の前で10年間苦しんできた日本の読者にとっては、劇的な前進である。