( 二人の殺し屋と少女の物語。 )? #8

8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします@2周年:2015/05/10(日) 18:30:04.65 ID:PSLxgAk/

004

 先程から侑稀が優しく話しかけているが目立った進展はない。
 燈浬は彼らから少し離れたところで家の塀に寄りかかり、煙草を吸っている。

「ねぇ、名前は?」
「……」
「んー。いつまでも君やと不便やろ? それに俺じゃあかんのならあの怖いお兄さんにたのもうか?」

 びくり、と少女の体が震える。
 先ほど、燈浬が少女に対して行った行為は彼女に恐怖を植え付けたようだった。

「それが嫌なら教えてくれてもええやん? ね、燈浬」

 くるっ、と振り返った侑稀の満面の笑み。
 その笑みを見て、燈浬は呆れたように溜息をついて、呟くように言った。

「俺を条件に出すな。はなっから、そいつとしゃべる気なんてねぇよ。つか、怖いお兄さんってなんだよ?」
「だって、そうやろ?」
「絢が、俺たちが怒った時はどっちもどっちって言ってたぞ?」

 燈浬がそう言うと侑稀は目をパチクリさせた。
 そして、独り言のように言う。

「帰ったら絢、しばこぉか」
「無理だろ」

 燈浬がボソッと呟いたが侑稀は聞かないフリをした。

「で、君名前は? そろそろ教えてくれてもええと思うで?」

 急に話の方向が自分に向いたからか少女は肩を強張らした。
 そんな時に、二人に掛けられた声。

「燈浬に侑稀? ……何、こんな夜中に二人で少女いじめてんの?」
「「――――は?」」

 二人同時に間抜けな声を発し、振り向くと一人の女性が不思議そうな表情を浮かべたまま近寄ってきていた。

「……絢(ジュン)。侑稀は分かるけどさ、なんで俺まで入っているんだよ?」

 燈浬はそう呟くように言った。
 絢と呼ばれた、黒い髪を首元で切りそろえたを女性は、にこりと赤い紅の引いた唇を妖艶に歪ませて笑った。

「近くにいれば共犯。連帯責任。いつも言ってるじゃない。で、侑稀は何してるの?」
「……ターゲットの家におった子の名前聞いとるんやけど……なかなか教えてくれへん」

 侑稀は残念そうな笑みを浮かべた。
 言いながら少女に向けていた視線を、絢に向ける。

 それを聞いた絢は表情を曇らせた。

 絢は侑稀の隣へ行くとしゃがみこみ、目線を少女と合わせると言った。

「そっか。……お母さん、殺しちゃって……ごめんね。私が謝っても意味が無いかもしれない。でもね? 言い訳かもしれないけど、貴方のお母さん、たくさんの人に恨まれて殺しを依頼されるようなことをしてたの。それは分かって頂戴ね。私達も仕事で貴方のお母さんを殺した。無意味に殺したわけじゃないことを理解して欲しい」

 絢はそう言って少女の反応を待った。
 しかし、先程と変わらず彼女は口を硬く閉ざしたまま。
 絢は苦笑いすると燈浬と侑稀に背を向けたまま言った。

「少し時間、頂戴。あんた達は先に帰っていて」
「ん、分かった。じゃ、そのガキは任せた」

 燈浬はそう言って踵を返した。
 そして、何かを思い出したかのように振り向くと笑って言った。

「絢。お前ー……か弱い女の子だから、夜、出歩かないんじゃなかった?」
「君ぃー、その人怖いから早く名前言ったほうが身のためやで? 怒らせたらどうなるか分からへん」

 侑稀も笑って言うと燈浬と一緒に歩き出した。

 そんな二人の後姿を見ながら絢は呟いた。

「……後で覚えておきなさいよ……」

このスレッドを全て表示


このスレッドは過去ログです。