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…■「敵」の具体化は2016年に始まった
──1921年に右翼青年だった31歳の朝日平吾が安田財閥創始者の安田善次郎を刺殺した事件ですね。「テロルの原点」に改題し、今年2月に再出版されました。
第1次大戦後の不景気の真っただ中、都会に出てきた若者が群衆化し、生きづらさの問題が先鋭化した時代でした。
家族と折り合いが悪く、仕事も長続きしなかった朝日平吾は「一君万民」という観念に引き付けられますが、「君側の奸」の存在が社会を不平等にしていると決めつけ、自分の不幸の原因だと思い込み、凶行に及ぶ。
そうした時代を鏡にして現代を見る必要があると考えたのです。暴力の矛先が最高権力者にピンポイントで向かったことで、テロの時代に入ったと言っていい。「敵」の具体化は2016年ごろに始まりました。
──16年に相模原障害者施設殺傷事件、19年に京都アニメーション放火事件、21年に小田急線刺傷事件と京王線刺傷事件が起きました。
いずれの犯行も無差別に近いものの、津久井やまゆり園を襲った植松聖死刑囚は障害者というカテゴリーを標的にした。うまくいかないのは自分だけでなく、日本全体だと考え、論理を飛躍させた。