政府が大量の民間人を「適性評価」、秘密を漏らしたら最長5年の拘禁刑 経済安保情報保護法案
政府は7日、国家機密の取り扱いを有資格者に限る「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度を経済安全保障に関わる情報にも広げる「経済安保情報保護法案」の概要を自民、公明両党に説明した。秘匿性の高い情報の流出を防ぐ「特定秘密保護法」を実質的に拡大する内容で、秘密の範囲が広がるとともに、適性評価の対象となる民間人が大幅に増える見込みだ。国民の知る権利やプライバシーが侵害される懸念は一層高まる。(川田篤志、近藤統義)
セキュリティー・クリアランス(適性評価) 政府が指定した安全保障上重要な情報に接する必要がある公務員や民間事業者らに対して、政府が調査を実施し、信頼性を確認した上で情報を提供する制度。本人の同意を得た上で、国の行政機関が(1)家族や同居人の生年月日や国籍(2)犯罪歴(3)薬物乱用(4)精神疾患(5)飲酒の節度(6)経済状態などを調査する。特定秘密保護法で導入された。22年末時点で評価保有者は13万人。大半は国家公務員で、民間人は防衛産業を中心に3%。米国では評価保有者は400万人で官民比率は7対3程度とされる。
◆サイバー、国際協力など4分野の情報
自民党経済安保推進本部の甘利明本部長は7日の党会合で「先進国で経済安保に関する適性評価の資格を民間人が持っていないのは日本だけ。ようやく特別機微な情報について漏えいを防止する仕組みをつくることになった」と強調した。
政府は、2014年施行の特定秘密保護法により、防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野で、漏えいすると日本の安全保障に「著しい支障」の恐れがある情報を特定秘密に指定。情報を扱う公務員を中心に適性評価を実施してきた。
今回の法案では「サイバー」「規制制度」「調査・分析・研究開発」「国際協力」の4分野で、漏えいすると安全保障に「支障」の恐れがある情報を「重要経済安保情報」に新たに指定。特定秘密と同じように適性評価を実施するが、対象は防衛産業以外の幅広い民間事業者や大学を含む研究者などになる。漏えい時の罰則は、最長5年の拘禁刑とする。政府・与党は今国会での成立を目指す。
◆どういう情報を想定?「まともな回答はなかった」
特定秘密保護法は、特定秘密の定義が曖昧で国民の知る権利を侵害しかねないと批判されてきた。重要経済安保情報も同様に定義が曖昧になることが懸念される。7日の自民党会合の出席者は「政府にどういう情報を想定しているのか聞いたが、まともな回答はなかった」と語った。
適性評価のための身辺調査は本人の同意を得た上で行うが、飲酒や経済状況、家族や同居人の国籍なども調べられる可能性があり、プライバシー侵害につながりかねない。また、共同研究に参画したい企業や研究機関に所属する人にとって、適性評価が事実上の強制になる恐れもある。調査を拒否したり、不適格と認定された研究者らがその後、不利な扱いを被る恐れも否定できない。
東北大の井原聡名誉教授(科学史)は「特定秘密とは比べものにならないほど指定情報が増える。適性評価を受ける民間人も増える」と指摘。軍事転用可能な技術開発をする研究者や政府の仕事を受注したいベンチャー企業などを念頭に「運用次第では企業秘密を政府に吸い上げられる危険性もあり、企業の国家統制の入り口になりかねない。この制度の狙いは軍拡政策を支える産業づくりにある」と懸念を示した。
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