アメリカを支配する特権階級が作り出し、噂を広めた
なぜ多くの米国人が「陰謀論」を信じ、権力者たちの罪を見逃そうとするのか
(一部抜粋)
特権階級の「広報機関」と化した米メディア
──著書で主張されているのは、政治や司法、メディアなどの真実を明らかにする正義の機関が富裕層の食い物にされているということです。だからこそ陰謀論は真剣に調査されないとのことですが、そのカラクリを改めて教えてください。
数十年前はジャーナリズムへの参入障壁がそれほど高くなく、権力や権威に対してもっと挑戦的でした。しかし現在では政治を監視する人の数が少なくなっています。今ジャーナリストになるには無給のインターンシップ経験などが求められますが、非常にコストがかかります。労働組合の強化によって最近改善しましたが、誰もがなれるわけではありません。
アメリカのジャーナリストのサラ・ケンジオール。1978年生まれで人類学の博士号を持つ。2016年の米大統領選でトランプが勝利すると事前から予測していた Photo: De Balie / Wikimedia Commons
そういったことで、富裕層がジャーナリズムという実力主義の仕組みを支配するようになりました。2006年にジャレッド・クシュナーが米紙「ニューヨーク・オブザーバー(現・オブザーバー)」を買収したのはいい例です。
それから記者が権力側に接近して情報を得るアクセス・ジャーナリズムが常態化しました。そうしてトランプ政権などによる深刻な犯罪や陰謀が見えにくくなったのです。
そういう体制下で権力側にアクセスできるのは誰でしょう。それはたいてい特権的な人たちとの繋がりを持つ豊かな家に生まれた人たちです。彼らはヒエラルキーにおける自分の地位を保持しようとします。だからこそ強力なアクターを守ろうとするのです。
権力を持ったのがトランプ政権のような犯罪教団だと、彼らはその陰謀の広報をすることになります。たとえば米国会議事堂襲撃事件もそうです。これらは密かな計画のもと実行され、隠蔽された真の陰謀です。しかしメディアはそれを深く掘り下げようとはしません。
──ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズのような、リベラルな大手米メディアにおいても、そのようなことが起きていたのでしょうか。
少なくとも金銭面の問題を調べようと本格的に調査報道した記者はいました。しかし、そういう現場の懸命な努力を抑え込もうとする上からの動きが多くあったはずです。そういう動きに不満を持ち、大手メディアを辞めていく人たちもたくさん見てきました。出世するのはたいてい縁故採用で入った人で、家族がトランプやクシュナーの下で働いていたなどというケースもあります。
そこまで極端ではなくても、富と特権のある家庭に生まれ、給料が非常に安くてもコストが高い都市に住めるからこそジャーナリストになれたという人は大勢います。だからこそ多くのことが調査されず、多くの腐敗が追及されないままなのです。
もちろん、きちんとした仕事をしている記者もいます。しかし多くのメディアが統合され、調査のための資金が削減された今、普通の記者がそうした報道を担うのは現実的に難しくなっています。だからこそジャーナリズムの質が低下しているのです。
https://web.archive.org/web/20221015074018/https://courrier.jp/news/archives/303756/
ファスト・カンパニー(米国)
Text by Mark Sullivan
2022.10.15