日本は構造的に円安になりやすい。新興国の経済成長で相対的に円が弱くなっていることに加え、日銀が緩和政策を続けているからだ。だが、あるべき水準に照らせば円安は十分な水準まで進んでいない。ある程度の円安となってはじめて、日銀の金融緩和は機能し、デフレからの脱却につながると考える。
提唱したいのが「自然為替レート」という概念だ。金利における自然利子率に相当するものと考えてもらえばいい。潜在成長率などファンダメンタルズ(経済の基礎的要件)から見て妥当な為替水準のことで、これが実質実効為替レートを上回っていれば、デフレから緩やかなインフレに移ることができる。
現状はこの自然為替レートがあまりに低いため、円安が進んでも、まだ十分な景気やインフレの浮揚効果が生じていない。日銀が一段の実質金利引き下げに動くのは難しく、景気浮揚とインフレ醸成のためには実質実効為替レートの下落に依存することになるが、金融政策の有効性が弱まっており、実質実効為替レートを有効に引き下げる手段を欠いているというジレンマに陥っている。