しかも米国は利上げ局面にあり、円安・ドル高が進行しやすい状況にある。地政学リスクの深刻化で安全資産としてドルが買われやすい状況も続くだろう。円安・資源高という現状は、政策動員なしでは解消し得ないとみている。
問題はどのような政策が必要かだ。資源高が構造的なものである以上、金融緩和に基づくリフレ政策を見直すしかない。ただ、現状は逆に「指し値オペ(公開市場操作)」で金利上昇を無理に押さえ込んでおり、大いに疑問だ。景気悪化につながる利上げはできないにせよ、長期金利の上昇を容認するなど、日銀は政策を転換すべきタイミングに来ているのではないか。
もう一つ重要なのは、グローバル製造業は生産拠点の多くを需要地に移転しており、かつてほどの円安メリットを享受していないという点だ。むしろ円高で企業の購買力を高めた方が、海外への投資がしやすく資源も確保できるはずだ。
政府は資源の確保の必要性を認識していながら、円安を放置し企業の購買力を低下させてきたように思う。資源高が長期化する公算が大きい中、企業は「円安は企業の利益にとってプラスだ」という発想を転換し、もう円安でなくてもいいと声を上げるべきだろう。
是正は困難、賃上げを先に
尾河真樹 ソニーフィナンシャルグループ執行役員兼金融市場調査部長
ファースト・シカゴ銀行などを経てソニー財務部にて市場調査などに従事。2016年より現職。
目下の円安は、米国のインフレに伴う利上げ観測の高まりと長期金利の上昇、資源高に伴う日本の貿易赤字の拡大、そしてウクライナ危機で生じた「有事の円買い」が一服しつつあることなどが背景にある。とはいえ円の流動性は依然高く、円への信認も相応に高い。過度に悲観する状況にはないとみている。
もっとも、実質実効為替レートの低下は簡単には止まらない。まず、金融政策の格差や原油高に伴う貿易収支の赤字で、名目為替レートの円安が進んでいる。加えて日本のインフレ率は低迷しており、内外のインフレ格差も拡大している。さらに、インフレ率上昇につながる賃金上昇がなされていない。