ウクライナ危機に伴う資源高でこうした問題が表面化しつつある。今、日本は経済全体が円安に伴い地盤沈下し、それがさらに円売りを呼び込むという悪循環になるかどうかの瀬戸際に立っている。
これを止めるには、結局日銀が円安を誘導するような金融緩和をやめるしかない。現状での利上げは将来の財政負担を増加させるという問題がある。しかし、長期的にみれば円安を放置することの方がずっと悪影響が大きい。政治が円安退治に向けて強い意志を示すべき時だ。
現状の急激な資源高を、企業が全て転嫁するのは困難な状況だ。企業側に円安のデメリットが意識されている今こそ、円安政策を転換する好機だ。円安政策の転換と並行して構造改革を行い、企業の競争力を高めることが求められている。
デフレ心理続けば貧困国へ
永浜利広 第一生命経済研究所首席エコノミスト
1995年早稲田理工卒。同年第一生命に入社。2000年に第一生命経済研究所経済調査部、16年より現職。
実質実効為替レートがピークだったのは1995年ごろだ。そこから円安基調に転じた時期は、日本経済がデフレによる長期低迷に入った時期と重なる。これ以降に社会に出た「ロストジェネレーション」と呼ばれる就職氷河期世代を中心に、日本人は将来に対する成長期待が持てていない。このデフレマインドが海外とのインフレ格差を作り出したといえる。
ウクライナ危機で資源高が続く中、インフレ率格差の加速は相対的な購買力の低下に がる。このまま何の手も打たなければ、日本は資源などで他国に買い負け、一層「貧しい国」へ転落するだろう。低賃金が行き着くところまで進めば日本の安く勤勉な労働力が海外から求められ、それによって購買力が反転するかもしれない。しかし、失われるものも大きいだろう。
かつて元米財務長官のローレンス・サマーズ氏は、過剰貯蓄や投資不足によって均衡金利が極端に低下し、金融政策のみでは機能不全に陥る「長期停滞論」を打ち出した。この典型が日本だ。これを脱却するには財政出動や減税により需要不足を解消し、デフレマインドの解消につなげるしかない。ただ、財政健全化を重視する政府がそうした動きに出る気配はない。