東京電力福島第一原発から北に30キロ。かつてアユ釣りでにぎわった福島県南相馬市の真野川沿いに、色あせた看板が立っている。
《規制解除にはなっていません 採捕等の行為はしない様お願いします》。釣り人に向けた看板は、原発事故後、地元・真野川漁協が川沿いの約50カ所に立てたものだ。
真野川では事故直後、国の放射性物質の基準濃度を超える1キロあたり2100~3300ベクレルのアユやウグイ、ヤマメが見つかった。出荷制限と釣り自粛の呼びかけが続き、遠方からも訪れていた釣り客の姿は、今はみられない。同漁協理事で釣具店を営む森幸春さん(60)は11年近くにおよぶ出荷制限について、「『生きている間はもう釣りはできねえか』と言う人もいる」と明かす。自身の店も売り上げが激減。市内や周辺では閉める釣具店が相次いだ。
環境省が毎年続けるサンプル調査では、真野川の魚の放射性物質濃度は徐々に下がっているものの、昨年度も基準を超えるヤマメなどが見つかった。制限解除のめどは立たないままだ。
それでも、同漁協は事故の2年後からアユなどの放流を毎年続けている。川魚のほとんどは1年で一生を終える「1年魚」であるため、「魚を枯渇させてはいけない」との思いからだ。出荷制限の長期化を心配する声も少なくなく、森さんは「若い人たちに川釣りを引き継げなかった。この先、釣り人はかなり減るんじゃないか」という。
原発事故で大量の放射性物質が海に飛散するなどした影響で、青森から茨城まで5県の海産物に出荷制限がかかり、福島県沖はヒラメやスズキなど最大43魚種に出荷制限がかかった。ただ、海では放射性物質が拡散しやすく、基準値を超える魚の割合は年々低下。安全が確認された魚から徐々に出荷制限が解除され、2020年2月にはいったん出荷制限がなくなった。現在は福島県沖のクロソイにだけ出荷制限がかかっている。
だが、河川や湖については、いまだ出荷制限が続き、その数は福島、宮城、茨城、群馬、千葉の5県、25カ所におよぶ。なぜ解除の見通しが立たないのか。背景には、除染されず、放射性物質の残された森林から始まる食物連鎖があった。
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