〈第一条 対局者は、対局中は、一時的な場合を除き、マスク(原則として不織布)を着用しなければならない。〉
日本将棋連盟が2月1日より実施した「臨時対局規定」が棋士たちの間に“盤外戦”を呼び起こしている。
続く第三条にはこうある。
〈対局者が第一条の規定に反したときは(略)反則負けとする。〉
マスクをしなければ負け、という厳格な規定だ。
後日、連盟から棋士たちに送られてきた説明メールによれば、第一条の“一時的な場合”とは、
食事中や飲み物を飲むとき、周りに人がいない(2m以上離れている)とき等、とある。
「これを受け、2月11〜12日に行われた王将戦第四局では、渡辺明王将も藤井聡太竜王も、
終局までマスクを外しませんでした。以前は入念に読みを入れる際、外す光景も見られましたが……」(観戦記者)
終始マスクをつけていた渡辺、藤井の両対局者
しかしコロナ禍も早2年。連盟はなぜ今になって“マスク法”を定めたのか。
「一部に“反マスク派”の棋士がいるのです。彼らの中には対局中はもとより、
将棋連盟内を移動中にもマスクをしない人もいる。苦々しく思った複数の棋士や
女流棋士が、理事会にクレームを入れたのです」(同前)
“絶対にマスクを外さない派”の中堅棋士が語る。
「対局中は脳をフル回転させます。終盤はなおさら。誰だって息苦しい思いはしたくないけど我慢しています。
不織布マスクは相当研究しました。対局中は呼吸がしやすいタイプに換えますが、それでも苦しくなる時はある。
その時対局相手がノーマスクだと、そりゃイライラしますよ(苦笑)」
一方、マスクをつけず、反マスク派の代表的存在と目される棋士がいる。日浦市郎八段(55)。
かつて羽生善治九段に強かったことから“マングース”の異名を取ったベテランだ。
日浦八段は小誌に対し、
「コロナについてはかなり勉強した。私はマスクは感染予防に効果がないと考えている。だからマスクをつけないんです」
そう語った上で、不満を表明する。
「そもそもマスクを着ける、着けないは国民にとって任意のはず。強制されるのは心外。
新ルールが決まった後でマスクをして二局対局し、負けました。言い訳をするつもりはありませんがマスクを強制された影響はゼロではないと思います」
日浦八段(日本将棋連盟HPより)
若手理論派の阿部健治郎七段(32)も、新ルールに懐疑的な見解を示す。
「分からないのは対局中は基本的に会話しない棋士がマスクを着けて、
感染予防になるのかということ。飛沫なんて飛ばないですよ」
ただ、不安を感じる棋士が多かったのも事実だ。
「肺炎の罹患歴があったり、喘息を持っている棋士もいます。彼らがマスクを着けない相手との
対局に不安を感じていたということもあります」(前出・中堅棋士)
規定の目的は、反マスク派の棋士たちにマスクを着けてもらうことだという。
前出の観戦記者はいう。
「反則負けという文言は、いわば抑止力。実際に十分程度マスクを外したからと
いってただちに反則負けを宣言することはないでしょう。とはいえマスクの問題でこれだけ紛糾するのも、
各自が一国一城の主というプライドを持ち、強制を嫌う将棋界ならでは。連盟としても、もうちょっと穏便に進める方法もあったかもしれないが……」
日本将棋連盟に新規定について訊くと、総務担当の森下卓理事が回答した。
「棋士、女流棋士、奨励会員の健康を守るため、やむをえない決定と考えます」
うまく事を収めるのは、対