〈社説〉NHK虚偽字幕 言い逃れで済まされない
NHKの場当たりな説明で片づけるわけにいかない。放送、報道のあり方の根幹に関わる。番組制作の徹底した検証が欠かせない。
昨年末にBSで放送したドキュメンタリー番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」で、事実と異なる字幕を付けた問題だ。裏づけも取らないまま、不確かな内容を字幕にしていた。捏造(ねつぞう)と非難されても仕方ない。
五輪の公式記録映画の監督を務める河瀬さんに密着取材した。番組の後半、河瀬さんから依頼を受けた別の映画監督が匿名の男性に話を聞く場面がある。
「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」―。字幕は、担当ディレクターが別途、男性から聞いた話を基に補ったという。しかし、男性が五輪反対デモに参加し、金銭を受け取った事実は確認できていない。
思い込みで字幕が作られ、チェックも不十分だったとNHKは釈明するが、信じがたいずさんさだ。男性の記憶は曖昧で、事実がなかったとも断言できないとし、全くの虚報ではないと強弁したことにはあきれて言葉を失う。
事実確認を怠り、チェックが行き届かなかったことだけが問題なのではない。番組を見た人は、五輪反対のデモには日当が出るのかと受け取りもしただろう。抗議する人たちをおとしめ、視聴者を誘導する意図さえうかがわせる。
2017年に東京の地上波ローカル局の番組で、沖縄の米軍基地建設に反対する人たちが日当をもらっていると根拠なく決めつけられたことと重なり合って見える。放送界の第三者機関である放送倫理・番組向上機構(BPO)はこの番組を重大な放送倫理違反と認定し、厳しく批判した。
NHKは今回、前田晃伸会長らが、河瀬さんら関係者と視聴者に深くおわびすると繰り返す一方、五輪反対のデモに参加した人たちへの謝罪はない。その姿勢も問われなければならない。
続き
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022012500827