高畑監督は雑談レベルの日常会話ですら高尚すぎてまともに付いていける人が誰もいないぐらい、ジブリの中でも特別な存在でした。さらに言葉の使い方にもとても厳格な人で、「いつもお世話になっております」などと社交辞令を言おうものなら、「私はあなたのお世話なんかしていない!」と怒られる始末。映画を作ってもらうどころか、普通に会話をする時でさえ注意しなければならなかったのです。
そんな高畑監督の担当になった西村さんは、まず毎日自宅に通って世間話をするところから始めました。その日の新聞に出ている記事とかNHKのニュースみたいな本当の雑談から、歴史観や差別問題や文化比較論に至るまで、1日12時間、トータル500日以上ひたすら高畑さんの元へ通い続けましたが、雑談ばかりで一向に『かぐや姫』の話は進みません。映画公開後、この当時の様子を西村さんは次のように語っています。
「土日も無し。”24時間高畑監督と一緒にいろ”って言われましたね。実際に一緒に過ごす時間は12時間ぐらいなんですけど、寝てる間も常に頭の中にいるんですよ、高畑さんが。もう、高畑さんが出てくる夢しか見なかった時期がありますからね。夢の中で高畑さんを説得するために、こういうことを話さなければいけないというのを順序立てて考えて、それを高畑さんに一生懸命説明して、ようやく”わかりました”と言われ、”よかったー!”と思ったら夢だったという(笑)。目覚めて、また同じことをしに行かなければならないんですよ。気持ちは完全にひと仕事終えてるのに(苦笑)」 (「美術手帖2014年01月号」より)
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