罰則を作れば保健所が混乱する
また、声明の文章について議論している最中に、それ以上に大きな問題だと気づいたのは、この罰則規定を入れることで、保健所の現場が混乱する可能性が高いということです。
ーーどうしてですか?
新型コロナでやっている感染者の同定や積極的疫学調査は、保健所が今回初めてやったことではないのです。結核でずっと日常的にやってきたことです。なので、担当部門はすぐコロナに対処できたのです。
そして、以前から前提にしているのは、「住民の理解と協力を得て、社会を防衛する」ということです。「一人を犠牲にして、残りを救う」ではないのです。
かつては、「全員を救うために、一人を殺した」のです。それが感染症法以前のやり方です。
記録を見ると、当時は結核やハンセン病だとわかると収容所に連れて行かれていました。家にいると捕まるので、山小屋に匿って家族がご飯を運んでいたのです。
だけど頻繁に訪問していたら周りに気づかれます。それで保健婦(当時)が良心の呵責を感じながらも、警察権力にその所在を知らせて、強制収容に加担したのです。
そうではない形で保健活動をするために1998年に作った感染症法を、また「警察権力にくっつく保健師」に戻すのか、というのが今回の問題です。
つまり、住民との信頼関係で成り立っている地域の保健活動が、根底から崩されてしまう。
感染症法上必要な情報が取れなくなるだけではなく、あらゆる地域の保健活動の根底的な資源を失ってしまうのです。
ーー言い方は悪いですけれども、「警察の犬」のように見られてしまうわけですね。
そうなります。「あそこに情報を流したら、警察に流れてしまう」と警戒されます。
ーー今回は、「夜の街」クラスターに対処するためと言って、警察権力が動員されましたね。
お巡りさんが出まくっていましたね。
「前科者」にならないために、感染を隠す人が出てくる
ーー特別措置法の改正はどう考えますか?飲食店に罰金を作ろうとしています。
特措法の改正は飲食店に対する行政罰による過料(罰金)ということになっています。それはあくまで秩序を保つために必要な協力を求めて、それが得られないなら罰金を取るという形です。
言ってみれば、交通違反と似たような対処法です。交通違反で切符を切られて罰金を収めるのと同じで、前科は残らない。
ーーそれならまだ納得はいくのですか?
まあそうですね。
一方、今回の感染症法の罰則は、法律上、必要だと言われた行為に反したものを抑えるということなので、行政罰にできないのです。
やるなら必ず刑事罰になってしまう。つまり感染者が前科者になるんですよ。
しかも今、PCR検査の行政検査のキャパシティが限られているので、民間の検査が入り込んでいますね。陽性になったら自分で保健所に連絡してくださいという体制なわけですが、もし罰則ができたら、「面倒臭いことに巻き込まれたくないから黙っておこう」ということになります。
ーーそうすると、感染が蔓延してしまう可能性がありますね。
そうなんです。