マウスの脳の一部を刺激すると、人工的に冬眠に似た状態に導ける──筑波大学と理化学研究所は6月12日、こんな研究結果を発表した。
通常は冬眠をしない実験動物のマウスを冬眠に近い状態にできたため、同じほ乳類である人間の人工冬眠についても研究が進むと期待できるという。
筑波大学の櫻井武教授と大学院博士課程の高橋徹さんは、マウスの食事行動などに関わるとされる神経物質を作る神経集団「QRFP」を刺激したところ、マウスの体温と代謝が数日間にわたって大きく低下することを発見。この神経を「Q神経」と命名した。
ほ乳類など体温を一定に保とうとする動物は、体温が一定より下がると酸素の消費量を上げて熱を作り、体温を上げようとする。
通常のマウスは37度付近で体温を保持するが、人工冬眠状態のマウスは保持する体温が30度を下回ったという。
Q神経が個体の運動能力や記憶能力に影響するのか実験したところ、特に影響は見られなかったという。
研究チームは「Q神経による人工冬眠は安全な低代謝状態だ」と結論づけている。
同様の実験をマウスの10倍ほど体積のあるラットでも行ったところ、同じように低体温・低代謝を示した。
Q神経による休眠誘導のメカニズムを調べたところ、ほ乳類が広く保存しているメカニズムであることも分かった。
これらの実験結果から、研究チームは「人間のような冬眠をしない動物でも冬眠を誘導できる可能性がある」としている。
「もし人工冬眠が実現できると、重症患者の搬送や再生臓器のストック、寝たきり老人の筋萎縮治療などの医療分野で発展が見込める」とし、「将来的には、人類の宇宙進出にも大きく貢献できる技術だ」(同)と期待を寄せた。
研究成果は、英科学雑誌「Nature」に11日付で掲載された。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2006/12/news120.html
https://image.itmedia.co.jp/news/articles/2006/12/ki_1609376_qih03.jpg