日本はまだその状況までは至っていない。そのことを私は言いたいのだ。 なぜ、日本は新型コロナ対策でうまくいかなかったのか。安倍首相がリーダーシップを発揮できなかったことは、もちろん理由の一つだろう。しかし、本当の背景には日本が抱える根深い問題があるように、私は感じる。
私の印象では、日本社会は柔軟性に欠ける。しかも、それは年々ひどくなっているように思える。
以前、富士山近くのレストランで「ライスを食べたい」と言ったら、「メニューにないものは出せません」と言われた。ところが、メニューには寿司がある。「ライスはあるはずだ」と言っても、「出せない」と言う。そこで私はマグロの寿司を大量に注文してネタだけを取り、シャリを茶碗に入れて食べた。「ライスはあるじゃないか」と言ったが、それでも「メニューにないものは出せません」と言われた。
日本が柔軟性に欠ける理由の一つは、移民が少ないからではないか。閉じた国は、やがて勢いを失う。これが事実だ。
50年前、沼地だったシンガポールは国を開き、賢く成功した人々を招き、急成長した。外国人が集まるところは成功する。閉じこもった国は苦しむ。
もちろん、移民を無制限に受け入れることは新たな問題を生む。だが、移民は新しいアイデアやビジネスのやり方、そして新しいマネーを持ち込んでくる。
日本はいろんな意味で私が最も好きな国の一つだ。だからこそ、私は日本の未来について誰よりも心配している。
(取材/朝日新聞シンガポール支局長・西村宏治 構成/本誌・西岡千史 監修/小里博栄)
※週刊朝日 2020年6月12日号
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