●石井徹哉教授(大学改革支援・学位授与機構 研究開発部)の話
高裁の判断は、不正指令電磁的記録に対する罪の保護法益であるプログラムの動作に対する社会一般の信頼を保護し、電子計算機の社会的機能を保護するという観点からの解釈を、刑法168条の2以下の規定について一貫して行っているように思われます。
・意図に反するかいなかについては、「一般的なプログラム使用者」の意思に反しないかどうかという評価であるとしている
・その際、一般的なプログラム使用者が機能を認識しないまま当該プログラムを使用することを許容していないかどうかという点で判断している
・不正性について、あくまでプログラム使用者における視点からプログラムの信頼保護、電子計算機による適正な情報処理という観点からのみ判断している
ことなどから、そのように思われます。
個人的な感想としては、解釈論としてみた場合、高裁の判断は理論的に一貫したものであるともいえます。
ただし、私見では、不正性はあくまで電子計算機の適正な機能を危殆化するかいなかという点に限定して判断すべきであったのではないかと考えています。
言い換えると、高裁の判断は、社会一般の信頼に重点をおいてプログラム使用の際の安心感を保護することに力点をおいているようにおもわれます。しかし、処罰対象は電子計算機の適正な機能を危殆化するものに限定した方が、より情報セキュリティの確保に資するものと考えます。
弁護側は、JavaScriptにこだわりすぎており、どのように動作するのか、どのように機能するのかが本犯罪で問題となることをあまりにも軽視しているように思われます。168条の2以下の保護法益、罪質等から適切な解釈を展開して事案を評価し、無罪へと導くことが求められると思います。
高裁判決の解釈から考えると、当該プログラムに通常随伴されていない機能については、まずは閉鎖的な空間で実証し、徐々に社会へと浸透させていくことが技術者に求められると思います。
また、マルウエア解析などについても、一定のガイドラインなどを策定し、情報の発信元や発言者を特定せずに外部で引用・公開する「チャタムハウスルール」などのもとで、閉じられた環境での分析が要求されるものと言えます。
(了)