イスラエルのアヴィチャイ・マンデルブリット司法長官は21日、ベンヤミン・ネタニヤフ首相を収賄と詐欺、背任の疑いで起訴すると発表した。
ネタニヤフ首相には、実業家から贈答品を受け取った疑いや、便宜を図る代わりに自分に好意的な記事を掲載するようメディア幹部に求めた疑いがかかっている。
首相は、この訴追は「不誠実な」手続きによる「クーデター」だと非難。辞任する意思も法的責任もないと述べた。
テレビ演説の中でネタニヤフ氏は、当局は「真実ではなく私個人を追っている」と話し、「捜査当局を捜査すべき」だと訴えた。
マンデルブリッド長官は2月、ケース1000、ケース2000、ケース4000と呼ばれている3つの案件について、ネタニヤフ氏を起訴する方針だと述べていた。
10月にこれら3件に関する聴聞が終わり、起訴を決めた。
・ケース1000:ネタニヤフ氏は、富裕層の友人の便宜を図る代わりに、シャンパンや葉巻といった高価な贈答品を受け取っていたとされ、詐欺と背任の容疑をかけられている。ネタニヤフ氏は、友人関係における贈答であり、不適切な交換条件は出していないと反論している
・ケース2000:ネタニヤフ氏は大手新聞の主幹に対し、競合他社を弱体化させる法案と引き換えに、自分に好意的な記事を掲載するよう求めたとして、詐欺と背任の疑いがかけられている。この主幹は贈収賄の罪ですでに起訴されているが、首相ともども疑惑を否定している。なお、この法案は可決されなかった
・ケース4000:ネタニヤフ氏は大手通信社の筆頭株主と、この通信社に規制上の便宜を図る見返りに、自分に好意的な記事をウェブサイトに掲載してもらう取り決めを交わしたとして、贈収賄と詐欺、背任の容疑がかけられている。ネタニヤフ氏は、規制には専門家も同意していたうえ、見返りは受け取っていないと主張。この筆頭株主も贈収賄容疑で起訴されているが、容疑を否認している
マンデルブリット長官はこの日、「重い心」で訴追を決断したと説明。しかし、イスラエルでは法を超越する者はいないことを示したと話した。
「法の執行は選択ではない。右派か左派かという問題でも、政治の問題でもない」
イスラエルでは4月と9月に総選挙が行われたが、いずれの党も過半数議席を獲得できず、膠着(こうちゃく)状態が続いている。
ネタニヤフ首相は先に、連立政権の樹立を断念。次に政権樹立を任されたベニー・ガンツ元軍参謀総長も20日、過半数議席を越える連立政権の形成は不可能だと発表した。
レウヴェン・リヴリン大統領は21日、3度目の総選挙を避けるため、向こう21日以内に首相候補を決めるよう議会に求めている。
ガンツ氏はツイートで、ネタニヤフ首相の起訴について司法長官と当局の判断を支持するとともに、イスラエルにとって「非常に悲しい日」だと述べた。
:今後どうなる?
イスラエルの法律では現在、首相は起訴されても辞任する義務はない。
地方裁判所での裁判が始まるまでには何カ月もかかるとみられている。また、有罪となった場合でも、控訴が認められる限りはネタニヤフ氏は辞任する必要はない。
非政府組織(NGO)などが最高裁判所に対し、ネタニヤフ氏の辞任を求める可能性はある。イスラエルの最高裁は以前、犯罪容疑で訴追された閣僚は辞任すべきだとの判断を下したことがあり、これが首相にも適用されるかどうかが焦点となる。
一方、ネタニヤフ氏を支持する議員らは、在任中の首相に不訴追特権を保証し、最高裁がこの特権に反対しても、さらにその判決を覆せ