■「まるで永遠のような時間」
一方、たとえわずかの時間であっても自分の注文を市場にさらすのは「もろ刃の剣」になる。高速で売買するHFT業者にその注文を見られて、注文を先回りされるリスクがあるからだ。
100ミリ~300ミリ秒といえば人間にとってはまばたきの速さとほぼ同じ一瞬の時間だが、マイクロ秒(百万分の1)からナノ秒(十億分の1)単位のスピード競争を繰り広げているHFT業者たちからみれば「まるで永遠に感じられるようなとても長い時間」(外資系証券の電子取引担当者)。個人の注文情報を知ったHFT業者が、それを利用して利益を得るのはそう難しいことではないとの指摘は多い。
HFTの手口に詳しい複数の市場関係者の話を総合すると、たとえばこんな方法が考えられるという。
ジャパンネクストと東証にそれぞれ1株100円の売り気配が出ている銘柄があるとする。売り注文の株数は一般に売買高が大きい東証が1000株で、PTSが100株だ。このときある個人がSBI証券のSORで1000株の成り行きの買い注文を出したとする。
最良の売り気配が同水準であれば、SBI証券のSORはまずジャパンネクストに注文を流すため、そこで1株100円で売買が成立。残る900株はジャパンネクストの板情報で「1株100円、900株買い」と表示される。この表示される時間が100ミリ~300ミリ秒だ。
これを見たHFT業者はこの銘柄に900株の買い需要があることを知り、100ミリ~300ミリ秒後にはSORで東証に回ってくることを予知する。
HFT業者は先回りして東証で900株を買い、このうち800株を1円高い1株101円で売りに出す。個人の注文はSORで成り行き買いとして東証に回ってくるため、HFTは個人に1株101円で800株を売ることができる。100株は売れずに手元に残るが、これは株価の推移をみながら市場で速やかに処分する。個人の注文データを覗(のぞ)いたことで可能になる、リスクの低いトレーディング手法だ。
実際、ジャパンネクストのPTSには多数のHFT業者が参加している。
ジャパンネクストにはどの投資家でも参加できる「第1市場(Jマーケット)」と、ネット証券を通じた個人の注文と一部の大手のHFT業者だけが参加する「第2市場(Xマーケット)」が存在する。
第2市場に参加できるHFT業者は「第1市場で継続的に値段を出し続けている健全なマーケットメーカーだ」(SBIジャパンネクスト証券の山田正勝最高執行責任者)という。売買シェアなど第1市場での実績によって成績上位の4社を選んでおり、半年おきに入れ替えている。