伝染性のがん、世界各地のムール貝で見つかる
北米、南米やヨーロッパにも、複数種のムール貝に同じがんを発見、最新研究
はるか昔、北半球のどこかで、ムール貝の仲間であるキタノムラサキイガイ(Mytilus trossulus)が、白血病に似たがんにかかった。たった一つの細胞の変異から始まったがんは、増殖を繰り返し、貝類の血液にあたる血リンパに乗って体中に広がった。
ここで意外なことが起こった。どういうわけか、がんが水を伝って他のキタノムラサキイガイに感染したのだ。新たな宿主の中でさらに増殖を繰り返したがん細胞は、次々と他の貝へ感染していった。
さらに不思議なことに、がんの広がりはキタノムラサキイガイにとどまらなかった。フランスなどに生息するヨーロッパイガイ(Mytilus edulis)と、チリやアルゼンチンに生息するチリイガイ(Mytilus chilensis)の2種でも同じがんが発見されたのだ。この2種の生息域は、互いに地球の反対側と言っていいほど遠く離れている。
この発見は、2019年11月5日付けで学術誌「eLife」に発表された。伝染性のがんに関する研究は近年増えており、今回の論文もその一つだ。(参考記事:「ガンを防ぐ「ゾンビ」遺伝子、ゾウで発見」)
「別の2種に伝染していたのは、なかなか驚きです」と話すのは、英ケンブリッジ大学で伝染性がんを研究するエリザベス・マーチソン氏だ。「同時に、危機感を抱かせる成果でもあります」。生態的な危機であると同時に、ムール貝は世界各国で好まれる食材だからだ。ただし、がんにかかった貝を食べると、人の健康に影響が及ぶという証拠は存在しない。
伝染するがんが見つかる
伝染性のがんの存在が確認されたのは、ここ数十年のこと。2種の陸生動物で見つかったのが最初だ。(参考記事:「170万年前のヒト化石に最古のがん発見」)
1つは、オーストラリアの絶滅危惧種タスマニアデビルにまん延する「デビル顔面腫瘍性疾患」。2006年に、これが伝染性のがんだとわかった。お互いの顔を噛むという、彼らにとってごく一般的な行動によって感染する。この疾患と、さらに別のよく似た伝染性がんによって、80%以上の個体が亡くなり、深刻な絶滅の危機に直面した。(参考記事:「絶滅危機のタスマニアデビル、「死の病」克服の兆し」)
同じく2006年には、イヌがかかる「可移植性性器腫瘍(CTVT)」が、伝染性のがんだと確認された。他の伝染性がんと同じように、この疾患のがん細胞はすべてクローンであり、その起源は1万1000年前に生きていた1頭のイヌだという。(参考記事:「イヌの伝染性の癌、起源は1万年前」)
以下ソース
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/111200655/
2019.11.12 ナショナルジオグラフィック日本版