カジノを含む統合型リゾート(IR)を巡り、東京都が今年三月、民間委託で作成した二〇一八年度調査報告書に、都内に立地した場合に「東京二〇二〇(五輪・パラリンピック)大会後の起爆剤となる可能性」と、利点を強調する表現を都の意向で加えていたことが、分かった。受託業者の報告書原案にこの表現はなかった。小池百合子知事は「検討中」との立場だが、東京はIR事業者からの期待が高い。ギャンブル依存症などに懸念もある中、東京の判断の行方に、注目がいっそう高まりそうだ。
報告書は一八年度に実施した「特定複合観光施設に関する影響調査」。都がIR誘致の可否を検討するための報告書だが、都は現時点では公表しておらず、本紙の情報公開請求に開示した。
「東京に立地した場合に想定される姿」として、IRが立地するシンガポールを例に挙げて「経済の活性化、観光振興」の意義を強調。東京五輪・パラリンピック後の経済落ち込みが懸念される中で、「東京二〇二〇大会後の観光振興や日本の経済成長の起爆剤となる可能性」と明記した。調査は監査法人トーマツが受託した。
一方、共産党都議団が入手し、公表したトーマツとの打ち合わせの「議事要旨」(一九年二月二十八日)には、都側が報告書に「起爆剤」などの表現の追加を求めた記録があった。本紙の取材に都港湾局は、原案にはなかったことを認め、加えた理由を「分かりやすくするため。前向きな意図はない」と説明した。
報告書は特定の立地場所は想定していないが、期待される効果として、経済波及効果を七千億~九千億円、雇用創出効果を三万~四万人、税収を八百億円と試算。一方、依存症やマネーロンダリング(資金洗浄)など社会的なマイナス影響については、国と自治体、事業者が「適切に役割を分担し、的確に対策を講じる必要がある」などと示すにとどまった。
都は一四年度から一七年度まで、海外のIR事情の調査などを実施。これとは別に、臨海部の開発構想の一環で、青海地区にIRを整備した場合に、事業採算性や経済効果が得られるとの報告書をまとめている。
米国のカジノ業界関係者によると「富裕層が多く、旅行客も見込める」として東京の評価は高い。先月には横浜市の誘致表明を受け、米国大手の「ラスベガス・サンズ」は大阪での参加を見送り「東京と横浜での開発の機会に注力する」と発表している。
政府は今月四日に基本方針案を発表。立地選定の評価基準に「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光の実現」などを挙げている。一方、東京都は来夏に五輪や知事選を控えていることもあり、当面は表立った動きはないとの見方も強い。
東京新聞:「五輪後の起爆剤の可能性」 カジノ利点 都が強調:社会(TOKYO Web)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201909/CK2019090802000158.html