海底の軟弱地盤が明らかになった沖縄県名護市辺野古(へのこ)の米軍新基地建設を巡り、「地盤改良により施工は可能」と結論づけた防衛省の報告書で、大規模地震を想定した耐震性能を検討していなかったことが分かった。過去の教訓から、国内の主要な十三空港は大地震に備えた耐震化をしている。辺野古沖では活断層の存在も取り沙汰され、専門家は「工事を強行するため、あえてハードルを下げたようにしか思えない」と指摘する。
防衛省は総工費を明らかにしていないが、仮に大規模地震を想定した耐震を施すとなれば工費はさらに膨らむ。防衛省は地盤改良に向け、近く有識者会議を発足させるが、県は報告書の内容に疑問を投げ掛けており、地盤改良に必要な設計変更に応じない構えだ。
報告書は、軟弱地盤でも基地が建設できるかどうか検討するため、防衛省から委託された建設コンサルタント七社が今年一月に作成した。地盤を固めるため七万七千本の砂のくいを海底に打ち込む工法を提案。政府は報告書に基づき、「施工は可能」と結論付けた。
防衛省は地盤改良の検討に当たり、新基地に必要な耐震レベルを判断した。参考にしたのが国土交通省の耐震基準で、五十~百年間に一~二度起こる小中規模の揺れを「レベル1」、東日本大震災級の最大規模の揺れを「レベル2」と規定。レベル1では建物が損傷しない、レベル2では倒壊しない耐震性能を求めている。
防衛省は新基地について「米側と調整した結果、レベル2を想定した備えまでは必要ないと判断、レベル1を選択した」と説明した。
阪神大震災後、重要インフラにはレベル2への備えが求められるようになっている。国交省は「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大地震・津波発生の考慮が必要」として、羽田など主要十三空港の耐震化を進め、レベル2の耐震性能を確保。辺野古と同様に軟弱地盤の上に建設された関西国際空港では、将来起きるとされる南海トラフ地震のマグニチュード(M)9に対応している。
レベル1を採用した報告書では、揺れの強さを示す加速度を最大四〇ガルと設定。震度7だった阪神大震災では最大八一八ガルを記録しており、ある建設コンサルタントは「四〇ガルなら震度3前後」と解説。「軍事基地なら危機管理上、最悪の事態を想定するもの。ハードルを下げるのは技術屋の感覚としてあり得ない」と指摘する。
辺野古では活断層の危険性が指摘され、県も埋め立て承認撤回の理由に挙げている。現地を調査した立石雅昭・新潟大学名誉教授(地質学)は「断層が活動すれば重大な被害が発生する恐れがある。レベル2を検討しない報告書には大きな過誤がある」と訴える。
防衛省は「権威ある文献に活断層を示す記述がない」と否定している。
東京新聞:辺野古地盤工事、大地震想定せず 識者「強行するためハードル下げた」:社会(TOKYO Web)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201909/CK2019090502000150.html