そばの湯切りにもマニュアルなし
社員は自由に、成果主義は絶対しない
富士そばには、創業当時から細かいマニュアルはない。例えば、そばの湯切り。少しだけ振ってその後しばらく待つというやり方もあれば、素早く振って少しだけ待つというやり方もある。何回振るかなどの回数も、人それぞれ違う。結果的においしければ問題ないので、細かなやり方はスタッフごとに任せている。
他社から来た人に指摘され、細かなマニュアルを作るかどうか、議論したこともある。しかし、最終的には作らずに、皆の自由に任せよう、という結論になった。
社員にはなるべく自由にやらせて、個性的に生き生きと働いてほしい。そうすると、長く続けることができる。細かい規則や慣習を押し付けられると、人間はストレスがたまってしまい、長続きしない。中途採用でもいいから、長く勤務し、それなりに会社に愛着を持って働いてくれる社員が大勢いるのが富士そばの強みだ。
富士そばでは、成果主義も絶対に取らない。あるとき、よその飲食業界から富士そばに入ってきた従業員にこんな提案をされたことがあった。聞けば、以前の会社では各従業員が手がけた盛り付けや味付けに、全部ランクを付けて評価していたという。その結果をもとに、あなたはAランク従業員、Bランク従業員、Cランク従業員と、評価していたそうだ。富士そばでもそのような制度を取り入れたらどうかと言われたので、私は即座に「やめた方がいい」と言った。
確かに、ある程度の競争は必要だ。しかし、人間そのものをランク付けしてしまえば、Cを付けられた従業員は評価の低さに落ち込み、Aを付けられた従業員は転落したらどうしよう、と不安におびえることになる。競争も重要だが、まずはチームワークありき。それぞれが得意な分野で力を発揮し、チームワークで乗り切ればいい、というのが私の考えだ。
湯切りが上手な人もいれば、接客が得意な人もいる。あるいは、計算が得意な人もいるだろう。声が小さい人がいるからといって「お前は挨拶が聞こえない。Cランクだ」と責める必要はない。だったら、声を出さなくてもいい仕事を割り当てればいいだけだ。誰にでも得手不得手はあるもの。みんなでかばい合って仕事をすればいい。
私は基本的に、みんな仕事はできると思っている。できないのは、やり方が悪いだけ。売り上げが伸びない場合は、「こうしたらいい」「ああしたらいい」と相談に乗りながら、アドバイスしている。工夫すれば、みんなができるようになる。特別なことは何もない。その人に合ったやり方を教えてあげればいいだけだ。