防衛大学校の学生寮（神奈川県横須賀市）で上級生らから暴行を受けたとして、福岡県内に住む被害男性（24）が国と上級生ら8人に慰謝料など計約3690万円の損害賠償を求めた訴訟のうち、上級生らについての判決が5日、福岡地裁（足立正佳裁判長）で言い渡される。訴訟では防衛大で陰湿ないじめがまん延していたことも判明しており、男性の母親（53）は「防衛大は悪い伝統を絶ってほしい」と訴えている。
自衛隊が災害救援に当たる姿に憧れて入隊を志した男性は、福岡県内の高校卒業後の2013年春に防衛大に入学した。訴状によると、男性は入寮後間もなく、上級生らから、消毒用アルコールで体に火を付けられる▽殴る蹴る▽机などを荒らされる▽男性の写真を遺影のように加工して無料通信アプリ「LINE（ライン）」で流される――などのいじめや暴行を受けて体調を崩し、15年3月に退学した。
上級生らは訴訟で、こうした行為の一部を認める一方、「指導の一環だった」などと法的責任を否定し、請求棄却を求めている。本人尋問では「暴力指導は自分も受けたが、忍耐強く成長できた」などと話した。
男性はその後、別の大学を卒業し、現在は法律の勉強をしている。街頭や集会で防衛大のいじめ問題を訴えてきた母親は「これから入学する学生たちのためにも適切な判決を出してほしい」と話している。
4年生57％が「粗相ポイント」あり
男性への暴行問題を受け、防衛大は2014年8月、在校生約1800人に暴行やいじめなどがないか聞くアンケートを実施した。男性の弁護団が情報公開請求で入手したアンケート結果によると、4年生の57％が「粗相ポイント」と呼ばれる下級生への陰湿ないじめを「やったことがある」と回答していた。
弁護団によると、「粗相ポイント」は下級生が学校生活でごみ捨てをしなかったり、上級生への気遣いがなかったりする不手際をするたびに加算される。下級生はポイントを解消するため、一発芸▽無理な飲食▽体毛を燃やす▽風俗店で写真を撮る――などの「罰ゲーム」を強要された。
弁護団は07～17年の防衛大生の懲戒処分者台帳も入手しており、暴力や強迫、強要などを伴う「私的制裁」による処分が86件あった。弁護団は「社会常識とかけ離れた学生間指導が連綿と引き継がれてきた」とし、大学の監督責任も追及している。
防衛大は取材に「アンケート結果を真摯（しんし）に受け止め、引き続き学生間指導の改善に努めていく」とコメントした。
防衛大のいじめ問題
防衛大の学生寮で暴行を受けたとする男性の告訴を受け、横浜地検は2015年3月、上級生3人を暴行罪で略式起訴し、横浜簡裁が罰金10万～20万円の略式命令を出した。防衛大も学生12人のほか当時の教官ら10人を処分した。防衛大は自衛隊幹部を養成する教育機関。学生は特別職の国家公務員で、全員が学内の寮に住み、食事や手当、ボーナスなどが支給される。
防衛大いじめ訴訟5日判決 母親が再発防止を訴え - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20190203/k00/00m/040/132000c