九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)の整備計画が暗礁に乗り上げている。新型車両
フリーゲージトレイン(FGT)を導入するはずが、技術開発が難航して頓挫。他の方法は関係者の賛否が
割れている。与党の検討委員会は7月中に一定の結論を出す予定だったが、19日の会合で
無期限の先送りを決めた。
博多と長崎を結ぶ長崎新幹線は2022年度に暫定開業する。博多から新鳥栖(佐賀県)までは既存の
九州新幹線(博多―鹿児島中央)の路線を使い、新鳥栖から長崎までの約116キロが新ルートになる。
フル規格で整備するのは武雄温泉(佐賀県)から長崎までの約66キロ。新鳥栖から武雄温泉までの
約50キロは在来線を使う。当初は新幹線と在来線を乗り継ぐ「リレー方式」で開業し、25年度からは、
車輪の幅を変えて在来線とフル規格を走れるFGTで直通運転するはずだった。しかしFGTは試験で
不具合が続き、JR九州は昨年運行を断念した。国土交通省の試算でもFGTは採算が悪化するという。
こうした事態を受け、新幹線開業によるスピードアップや経済効果を期待する長崎県やJR九州は、
佐賀県内を含む全線のフル規格整備を求め始めた。これに対し、「経由地」の佐賀県は反発を強める。
フル規格の整備費用は、JR九州の線路使用料以外の分を国と佐賀県が2対1の割合で出す。県負担は
1100億円の見込みで、FGTで当初、想定していた225億円程度(JRの使用料は考慮せず)から急増する。
山口祥義知事は「県内を二分する議論の中、FGTで合意した。佐賀県内の区間の話なのに、JR九州と
長崎県には非常に困惑している」と話す。秋田新幹線や山形新幹線のように、在来線に新幹線用の
レールを継ぎ足す「ミニ新幹線」も候補だが、工事により在来線の運行が減るなどするため、JR九州や
長崎県は慎重だ。整備方法をどうするのか。議論を引き取ったはずの与党の検討委は、予定していた
7月中の決定を先送りした。委員長の山本幸三衆院議員(前地方創生相)は19日の検討委後、
「FGTは断念せざるをえない。フル規格かミニ新幹線か検討を進めたい」と述べた。いつ結論を出すかは
「今はちょっと言えない。特にこれという決め手をもっているわけではない」とし、長期化する可能性を示した。
議論が暗礁に乗り上げる中、関係者からは「負担軽減が決まれば佐賀県も全線のフル規格整備を
理解してくれるのでは」との声が出る。だが、国土交通省は「負担軽減は公共事業の前提が変わるので
ありえない」(幹部)と否定する。国と地方の費用負担割合は、「全国新幹線鉄道整備法施行令」で
定められている。例外を認めれば、北陸新幹線(敦賀―新大阪間)や、山陰、四国などの基本計画路線
でも負担軽減の議論が噴出しかねない。JR九州の線路使用料などを増やす案もあるが、今でも
具体額は決まっておらず、「議論はできない」(同社幹部)状況だ。車両基地の費用などで長崎県が負担を
増やし、実質的に佐賀県の負担を減らす案もある。長崎県の中村法道知事は「新たな負担スキーム前提の
話ならば、求めによって検討をしなければいけない」という。国交省幹部は、「新幹線を欲しい地域、
政治家はたくさんいる。あまりにも遅れるようだと、四国のような熱心な他の計画を真剣に考えよう
となる可能性も出てくるのではないか」と見る。
長崎新幹線(博多―長崎)の整備方法の比較
【フル規格】
整備費用 6000億円
想定工期 12年
所要時間(現状1時間48分、暫定開業時1時間22分) 51分
費用対効果(得られる便益を費用で割ったもの) 3・3
JRの収支改善効果(年平均) 88億円
【ミニ新幹線】
整備費用 1700億~2600億円
想定工期 10~14年
所要時間 1時間14分~1時間20分
費用対効