もちろん、おのおののバンドが本当にギターを不要としたわけではなく、サウンド全体の中でしっかりと役割を果たしていますが、個人としてのギタリストはどうしても埋没します。その結果、若者が憧れるギターヒーローが現れにくくなりました。ギターの売り上げが落ち込んでいるとすれば、それも関係しているのではないかと思います。
このことは、世代間の変化からも解説できます。かつて、ギタリストは束縛をはねのける自由の象徴でした。自由を求める闘いはギターアイコンに表現されていました。1990年代初頭に流行したロックジャンルの一つ、グランジは、家庭が崩壊し、未来に希望が持てない者たちが焦燥感を表現した音楽で、ニルヴァーナのカート・コバーンがその代表格です。
一方、2000年代以降に成人するミレニアル世代は、少子化で子ども時代に自分の要求がある程度、通るようになります。日本ではさとり世代あたりでしょうか。強い焦燥感はありません。ただ、何も語らないわけではなく、連帯感を強調した歌が増え、現代社会を表現しています。
今の若者はつながりを大切にする世代で、パーティー文化を持ち、仲間と盛り上がることが好きです。周りと同じ格好でライブに参加し、自撮り写真をインスタグラムに上げる。ロックへの憧れは、ファッションで表現してもよくなっています。「個」の主張から「協調」のモードへ。若者文化の変容は、ギター音楽としてのロックのアイデンティティーを揺さぶっています。(聞き手・後藤太輔)
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南田勝也 1967年生まれ。武蔵大学教授。専門は音楽社会学。著書に「オルタナティブロックの社会学」など。