金賢姫は工作員になったとき特別待遇を受けて、鯉の寿司をご馳走になったことはあった。
だが、ここでは色彩豊かな新鮮な刺身がのっている。
「酢コチュジャンをつけて食べました。おいしかった……。
捜査官たちの服を見ると、北よりいい服に見えました。資本主義国家は北とは比べられないほど住みよい国なんじゃないだろうか。
そう思い始めました。北では刺身なんか、一般の人は見ることもできない。
金正日(キム・ジョンイル)だけしか食べることができないんですよ」(金賢姫)
しかし、ちらし寿司を出されたとき、金賢姫は「これは北朝鮮人かどうかのテストだ」と気づいていた。
日本人はコチュジャンではなく、醤油で寿司を食べると知っていたからだ。
彼女はコチュジャンを見ながら首をかしげて見せた。
「これはケチャップですか?
女性の捜査官は「これは辛いものよ」と親切に教えてくれたという。