急速に広まった「格安スマホ」。だがリスクがないわけではない。事業者の利幅が薄いだけに経営が悪化してしまう可能性があるのだ。するとどうなるのか。ケータイジャーナリストの石野純也さんが解説します。
大手通信事業者からネットワークを借りて、格安SIM、格安スマホなどの事業を展開するMVNO。その成長にブレーキがかかりつつある。
大手通信事業者の料金プラン改定をはじめとする利用者引き留め策が功を奏したうえに、ワイモバイルやUQモバイルなど、大手通信事業者自身やその子会社が運営するサブブランドが勢いをつけているからだ。
結果として契約数は伸びず、大半のMVNOがネットワークを借りるドコモの契約純増数も当初の見込みを下回っているという。
MVNOは小規模なものまで含めると600社を超えており、格安スマホという名の通り、利用者に提供する料金が安いため、利益の幅も薄い。規模が小さいMVNOの中には、経営が立ち行かなくなるところも出ており、業界再編が進んでいる。
◇楽天がフリーテルを買収
そのような中、11月1日、大手MVNOの楽天モバイルを運営する楽天が、やはりMVNOを運営する「フリーテルSIM」を、プラスワン・マーケティング(POM社)から分割してMVNO事業だけを買収した。買収後の楽天モバイルの加入者数は140万を超え、一気に個人向けMVNOシェアのトップに躍り出た。
ただし現時点では運営元が変わっただけで、楽天モバイルとフリーテルのブランド名は分かれたままとなる。約40万人の利用者が買収を意識するのは、2018年1月に予定されているブランド統合からになりそうだ。この時点で、POM社から継承した事業のブランド名も、楽天モバイルに統一される。
楽天によると、POM社が提供してきた料金プラン、キャンペーンなどは、そのまま利用でき、設定の変更も必要ないという。POM社の料金プランに魅力を感じて契約した利用者にとっては安心できるが、楽天にとっては二つのシステムを同時に動かさなければならず、事業効率がよくない。多くの利用者が機種変更を考える数年後のタイミングで、楽天モバイルの料金プランに統合されても不思議ではないだろう。
POM社は、2017年3月期決算で53億8800万円の営業赤字を出した。楽天に継承されたMVNO事業も負債総額が30億9000万円に達していた。
POM社は、データ通信専用プランを299円からと他社よりも安価に設定する一方で、女優の佐々木希さんを起用したテレビCMを大々的に放映したり、全国に店舗を設置したりと、コストをかけ、事業を行っていた。利用者からの収入が低いにもかかわらず、出ていくお金は莫大(ばくだい)だったというわけだ。最終的には事業が立ち行かなくなり、楽天モバイルが救済した格好となる。
◇知名度の高い大手に集中してしまうのか
POM社からのMVNO事業買収は極端な例かもしれないが、MVNO自体が薄利多売であることは確かだ。MVNO事業単独で黒字化している会社は、シェアが高い会社の中でも非常に少なく、楽天のように着実に利益を出せている本業が別にないと、経営環境は苦しくなりがちだ。安いと思って契約したMVNOが、突然破綻してしまう可能性も十分考えられる。
現状では、MVNOが突然事業を停止した際の法律的な救済措置はないため、ある日突然スマホが使えなくなるおそれもありそうだ。その意味で、楽天とPOM社のケースはソフトランディングだったといえる。