「表現の自由」を守るために活動をしているアメリカのNPO「コミック弁護基金」(Comic Book Legal Defense Fund)の事務局長・チャールズ・ブラウンスタイン氏が来日し、10月29日に東京都文京区で、最新のアメリカにおけるマンガ規制について講演を行なった(主催:コンテンツ文化研究会とNPO法人うぐいすリボン)。
ブラウンスタイン氏によると、かつてアメリカで吹き荒れたマンガやコミックに対する弾圧は下火になっているものの、図書館ではいまだ子どもたちが自由にマンガを読めず、検閲行為が行われているという。
また、トランプ政権下において、両極の表現が先鋭化し、表現活動が萎縮している状況について語った。 (弁護士ドットコムニュース・猪谷千香)
⋮
「今まで、コミックの歴史の中で、様々な危機がありました。社会の秩序を乱す存在としてコミックは、モラル・パニック(道徳的ではないと判断し、必要以上に反応するもの)などの対象になることがありました。特に報道メディアからは、社会の秩序を乱すということで攻撃されてきました。マンガ、コミックという物語を伝える手段を非難することは、個人の責任の放棄を促すことにつながりかねないですし、社会問題の根幹にある課題と向き合うことの回避を促します。
「1986年年末、警察によってコミック専門店が猥褻な図書があるとして立件されました。この時、アメリカのコミック出版界は戦う気概を見せて、コミックも表現の自由に守られるべきだとして、法廷で戦いました。これが、我々コミック弁護基金が生まれたきっかけです。この時は勝訴し、コミック弁護基金は法廷での係争、そして教育・啓発などを通してコミック業界の表現の自由を守る組織となりました。
⋮
コミック弁護基金では、法廷で作家や書店、出版社、読者を支援してきただけでなく、教育や啓蒙も積極的に展開している。
「検閲に対抗する運動を広げるには、教育や啓蒙を大事に思っています。検閲が起きてしまった場合、大きな世論を勝ち得ることが重要で、マンガというメディアを広く認知してもらうことが大きな対抗手段になるのです。そのためには、まず両親や保護者にコミックが多種多様なものだと認知してもらい、特定の作品が全ての読者向けではないということも知っていただく。
例えば、日本のマンガには多種多様な生き方が描かれています。ゲイの生活を描く田亀源五郎さんの作品はこの夏、アメリカで大きなヒットとなりました。また、手塚治虫さんの作品も『ブッダ』、『MW(ムウ)』『火の鳥』などの大人向けの作品が、最近やっと取り上げられるようになりました。一部のアメリカの作家たちには、昔の『ガロ』を再確認する動きもあり、関連作家が注目を浴びています。女性作家にも関心が集まり、萩尾望都さんらの作品が大手から出版されるようになっています」
⋮
「今、検閲の最前線は学校と図書館にあります。この一年、図書館で最も検閲対象として多かったのがマンガです。例えば、権威ある賞を受賞した作家が思春期向けに創作した作品で、作中で裸体や性描写は皆無にも関わらず、性について触れられているということで、アクセスを制限されました。他にも、中学の演劇部が舞台の物語で、登場人物の一人がゲイであるという理由で、検閲しろという意見がありました。しかし、何よりも『マンガだから置かれるべきではない』という声が強かったのです。これはとんでもないロジックだとして、打ち破ってきました」
日本でも子どもたちに人気の「ドラゴンボール」や「デスノート」、「ソードアート・オンライン」も学校図書館では、問題