ユネスコ(国連教育科学文化機関)の「世界の記憶」(旧・記憶遺産)を審査する国際諮問委員会が27日までに、日中韓など8カ国の市民団体などが申請した「旧日本軍の慰安婦に関する資料」登録の判断を見送る方向となった。日本政府は「政治的な緊張を高めることは回避すべきだ」(河野太郎外相)と歓迎するが、登録を支持してきた韓国は複雑な反応を示す。
「世界の記憶」の審査は2年に1度。前回の2015年、中国が申請した「南京大虐殺の記録」が登録されると日本政府は「政治利用だ」と反発し、ユネスコの分担金支払いを一時延期した。これを教訓に、外務省を中心に「ユネスコが政治的対立をあおる場になってはならない」と加盟国に審査制度の変更を働きかけてきた。
その結果、来年以降の申請分から、当事者間で意見が異なる場合はまとまるまで審査を保留するとの決議が18日に全会一致で採択された。政権幹部は「分担金支払い拒否も辞さないと発破をかけて、外務省に(登録阻止に向け)動くよう指示していた」と明かし、日本側の働きかけが反映されたと評価した。
一方、韓国外交省は27日のコメントで「慰安婦問題を歴史の教訓として未来世代に伝えるため努力を続けるのが政府の一貫した立場だ」として民間団体の申請を改めて支持。ただ、15年の日韓合意の「国際社会で互いに非難・批判することは控える」という条項を守りつつ、国内世論にも配慮する難しい立場を反映し、「ユネスコの関連手続きに従って客観的、正当に審査を受けられるように可能な外交努力を続ける」と述べるにとどめた。
慰安婦資料の登録を共同申請した日本の団体は27日、登録見送りとの報道を受け、「日本政府が求めているのは『忘却』です」などとするコメントを発表した。日本政府がユネスコの分担金支払いを一時見合わせて審査方法の変更を迫ったことなどを指摘し、「ユネスコが圧力に屈し、私たちの申請を除外したとすれば、手続き上もきわめて異常な事態」と批判した。(松井望美、ソウル=武田肇)
ソース
http://www.asahi.com/articles/ASKBW5RGJKBWUTFK017.html