きのこは秋の味覚の代表として、様々な種類が食用に供されています。しかし、その一方では毎年のように毒きのこによる中毒事故が発生していることも事実です。中毒の状況には、死に至るような致命的な症状から神経系の異常、胃腸系障害など種々の症状を引き起こすことが知られています。代表的な毒きのことしては、ツキヨタケ、クサウラベニタケ、カキシメジが知られていますが、その他中毒症状別の毒きのこは、下表に示した通りであります。それでは、いったいなぜ、きのこは毒を持つようになったのでしょうか…?
一般的に植物の場合は、動物から捕食されることによって受ける損傷を免れるために様々な植物毒を合成し、動物から捕食されないように防御を行っていると言われています。防御物質としての「毒」の場合、動物が食べてすぐに毒と分かるような成分だと言われています。つまり、食べられないように自分の身を守るための「毒」と言うことです。
しかし、きのこの「毒」の場合、ゆっくりと効き目を現すため、すぐには毒と分かりません。一般的には、胃腸系の毒で約1時間、致命的なものでも体が反応するまでには6時間近くを要します。このような悠長な反応ではとても自分の身を守ることなどできません。それゆえ、きのこの「毒」の場合、きのこ本体を食べられないようにするための役割は持っていないのではないかと言われています。捕食を回避する目的を果たしていないとすると、いったい何のための毒なのでしょうか…?
きのこは地球上の物質循環に無くてはならない存在であることは、良く知られています。つまり、植物や動物の死骸を分解して無機化し、土へ還す「分解者」としての役割を担っています。「分解者」であることからすると、共生関係にある植物が養分(動物の死骸)を吸収し易くするために、積極的に動物を死に追いやることも考えられなくはないのです。きのこを食することで動物が死に至る。このような企みの元で、きのこは毒を持つようになったのではないか? また、きのこの色のカラフルさには目を惹かれるものがあり、暗い森の中では目立つ存在と言えます。胞子の拡散(動物に食べられない場合は風で飛散)も兼ね、あえて動物に食べられることを前提に地上や樹上などに子実体を形成しているのではないでしょうか? きのこを見つけた動物がきのこを食べて(糞として胞子を拡散)、上手く死に至ればきのこの菌糸やバクテリアが死体を分解して土壌へ養分の形で還元し、それを植物が利用する。きのこの「毒」は、このようなしたたかな物質循環を考えて菌糸が身に付けたものなのかも知れません。さらに、きのこの本体である菌糸は「毒」を持つことで、その生育の場である地下や樹木内において、他の菌類との熾烈なテリトリー争いで優位に立つための手段を身に付けることができたのではないかとも考えられます。光のない地下の世界で、他の競合微生物とのサバイバルに打ち勝ち、地下の世界を制覇するためにきのこ(菌糸)の「毒」が役立っているのかもしれません。
ソース
http://www.kinokkusu.co.jp/etc/09zatugaku/mame/mame01-5.html