そんな金賢姫の苦悩を感じ取ったのか、あるとき捜査官たちが前触れもなく、
ソウル最大とも言われる繁華街・明洞(ミョンドン)に彼女を連れ出した。日本で言えば、若者が多い渋谷のような街だ。
「君の正体がばれると困る。私と恋人みたいにして歩きなさい」
金賢姫は、隣に立つ捜査員に言われた通りにした。通行人のふりをした国家安全企画部の捜査員たちが周囲を護衛していた。
クリスマスシーズンの明洞は華やかだった。ロッテ百貨店には、豪華な外国製の品物が並んでいる。
金賢姫は化粧品を手にとって、店員と会話をしてみた。女性捜査官がスカーフを買ってくれた。
「私は初めてこんな街を見ました。ヨーロッパに入ったことがあったけど、ソウルはもっと派手でした。