このソウル見学の後も、取り調べは続いた。
「私がいくら芝居をしても無駄でした。
捜査官たちは、私が中国のどこそこの町の出身だというと、その町の人を連れてきて、取り調べをするんです。
私とその人の話を目の前で比べるので、私の嘘なんてすぐに見破られてしまいました。
でも、北朝鮮を裏切ることはできなかった。裏切れば、家族はみな、強制収容所に送られるのですから」(金賢姫)
中国人のふりをするのは限界だった。金賢姫の胸に秘めた闘志は消えかかっていた。
――お母さんが私の立場を知ったら、何と言うのだろう。きっと「あなたの好きなままにやりなさい」と言うだろう。
ここで死刑になって、罪を償おう……。
そのとき、捜査官がこう、問いかけた。
「まず本当の名前を教えてくれ」
「私の名前は……金賢姫です」
初めて、朝鮮語で本名を話した。そして、大韓航空機爆破に至る経緯を、少しずつ明かしていった。
一つ真実を明かすたびに、金賢姫の脳裡に家族の顔が浮かび、胸を突き刺されるような思いがした。