ボートから船へ、船から船へ。計2回乗り換えた。2人が船の中で顔を合わすことはなかった。
ふわっと持ち上げられて別の船に移されるとき、保志さんは「海に放り投げられたと思った」、
富貴恵さんは「殺されると思ったから抵抗しなかった」と、関係者に当時の恐怖を語っている。
最後の船に乗り移ったとき、初めて袋から出された。
服装や背格好から、公園で襲ってきた男は4人ともいた。
そこで初めて男たちの声を聞いた。1人だけ、上手な日本語を話した。
その男が、日本が拉致事件の実行犯として国際手配している辛光洙容疑者で、
北朝鮮では「英雄」と称賛されてきた人物だと知ったのは、随分後になってからのことだ。