特務たちは、金賢姫の猿ぐつわを外し、栄養注射を打ち、毛布を掛け、涙を拭いた。その上で、こう語りかけた。
「私たちは、あなたが北朝鮮から来たことを知っています」
金賢姫の心は揺らぎかけていた。だが、目を見つめられて言われても、朝鮮語が分からないふりを通した。
心の中で革命歌を歌って堪えた。寝言で朝鮮語が出たらマズイと思い、眠ることができなくなった。
ある日の取り調べでは、ちらし寿司が振る舞われた。
日本の警察が、大量殺人の容疑者に寿司をとってやるなど、あり得ないだろう。その寿司には立派な刺身がのっていたという。