4~5人の特務が取り囲んでいた。
だが意外なことに、彼らは北朝鮮で学んだように黒眼鏡もかけていないし、黒い革ジャンも着ていない。穏やかな顔をした人々だった。
取り調べ中、金賢姫は「日本人・蜂谷真由美だ」と主張し続けた。だが、捜査官たちが彼女を拷問にかける様子はない。
それどころか、闘う決意を固めている金賢姫に対して、思わぬ態度に出たのだ。
「彼らは私を楽にしてあげると言って、人間的に接してくれたので驚きました。捜査官はほとんどが20代だったのです。
彼らはお互いに冗談を言い合って、笑ったりしていましたね」
金賢姫の目には、特務たちの様子は、韓国の若者の自然な姿だと映った。しかし、それは特務たちのうった芝居だった。
頑迷に日本人だと主張し続け、言葉が分からないふりをする彼女の反応を見ていたのだ。