マルボロに仕込まれた「毒薬アンプル」
その後、実行犯二人はバーレーン空港からローマに逃げようとしているところで身柄を拘束され、金勝一はその場で服毒自殺した。
その日のことを、金賢姫は私にこう語った。
「(空港に向かう前)バーレーンのホテルを出るとき、工作組長の金勝一が私にタバコの箱を渡しました。
『これを噛むときがあるかもしれない』って。
空港では、日本人名義の偽造パスポートがばれて、日本に連れて行かれそうになりました。
そのとき金勝一が言ったのです。『日本に連れて行かれれば、正体がばれてしまう。苦労して死ぬなら、これを噛むしかない。
私は年を取っているからいいけど、君には申し訳ないことをした』と。
任務遂行中に敵に捕まり、逃げられなかったら自殺しなさいと、工作訓練中にはいつも言われていたので、
私もその通りにすることしか考えませんでした」