万一、再び福島第一原発のような事故が起きて、放射性物質が周辺に大量に漏れたとき、次回は国は原発付近に住む住民をどう避難させるつもりなのか。
これは同事故を発生時から取材し続けている私のような記者にとって、もっとも重要な関心事のひとつだ。同事故では、国の失敗から、23万人が放射性物質に被曝するという最悪の結果を招いたからだ。
(中略)
「ポスト福島第一原発事故」の避難政策を国(原子力規制庁=原子力安全・保安院と原子力安全委員会が統合された新組織)が公表したのは2012年10月だった。「原子力災害対策指針」と呼ばれている(本文中では『新避難指針』と呼ぶ)。
さんざん新聞などで報道された「重点区域を原発の半径8~10キロ圏内から30キロ圏内に拡大」とか「半径5キロ圏内は重大事故が予想される場合、即時に避難する」とか「オフサイトセンターは半径5~30キロ圏内に設置」など、いろいろ細かい部分はひとまず置いておく。
この「新避難指針」を最初に見たときから、私が驚き、そして理解できなかった最大の疑問は「地上に設置したモニタリングポスト(MP=線量計)が高い数値を示したら、避難を開始する」という方針だった。
地上のMPが高い数値を示しているということは、すでにそこに高濃度の放射性物質のプルーム(雲)が到達している、ということを意味する。そうなれば当然、周囲の住民も放射性物質を浴びて被曝しているはずではないのか。
本来、原発事故で放出された放射性物質を浴びないために、住民は避難するはずだ。「被曝してから、避難するかどうか決めましょう」という新指針の内容は、どう考えても逆立ち、あえて語調を強めれば倒錯している。
しかし、新聞・TVなどマスコミや学識者はそれを批判どころか、指摘すらしない。私の理解が何か足りないのかと思って取材を続けていたら、滋賀県の嘉田由紀子・前知事など原発周辺の自治体がやはり同じ点を批判をしていることがわかってきた。
国は、本当に原発周辺の住民の被曝を許容するようになったのだろうか。いつからそんなおかした政策に転換したのか。転換したのなら、それはどう正当化されるのだろうか。
あれこれ調べてもすっきりしないので、私は原子力規制庁に直接話を聞きに行くことにした。すると驚いたことに担当課長が「『周辺住民の被曝やむなし』に避難政策を転換した」とあっさり認めたのである。
これは新聞TVなど記者クラブ系マスコミの記事には出てこない重大な話である。つまり「被曝ゼロ避難」を国は放棄したということだ。次の原発事故が起きて放射性物質が漏洩したら、周辺住民は必ず被曝するのである。
(全文は以下リンクより)
https://note.mu/ugaya/n/n6e5564b9d40f
烏賀陽(うがや)弘道/Hiro Ugaya 2017/08/31 22:39