受け渡しは駅前で
絶え間なく人が行き交う、東北地方のある駅前。午前10時過ぎ。タクシー乗り場に生後1か月の男の赤ちゃ
んを抱いた20代の母親が現れた。
「ミルク、すごくよく飲みますから」。待ち構えていた夫婦に母親は赤ちゃんを手渡した。白いベビー服の袖か
らのぞく小さな手。母親の胸を離れても、赤ちゃんは泣かなかった。
「名前のことなんですけど」。意を決したように赤ちゃんを引き取る40代の夫が母親に語りかけた。「漢字だ
け変えさせてもらっていいですか。うちの苗字にすると画数が良くなくて」。若い母親は恐縮するように手を
振った。「全然大丈夫です」
実の親との“別れ”は短い時間だった
10分にも満たない立ち話の後、夫婦は赤ちゃんを抱いてその場を去っていった。母親は泣きながらしばらく
立ち尽くしていた。