中国最古の王朝、夏の成立につながったとされる、伝説の黄河の大洪水が実際に起きていたことを示す地質学の研究論文が5日、米科学誌サイエンス電子版に掲載され た。
夏王朝の始祖、禹は川岸の浚渫(しゅんせつ)や水路の変更で黄河の治水に成功したとされる。
大洪水の科学的な証拠はこれまで見つかっていなかった。
研究チームによると、紀元前1900年頃、地震によって起きた土砂崩れで、山峡を通る黄河が半年から9カ月の間せき止められ た。その後、ダムのように水をせき止めていた土砂が崩れ、16立方キロに及ぶ水が下流の低地帯に流れ込んだ。
こうした出来事が実際にあったと示す証拠は、現在の青海省にある、黄河がせき止められた場所の沈殿物や、何キロも離れた下流まで流れた堆積物の調査で発見された。
論文の主執筆者、南京師範大学・地理科学部の呉慶竜教授は、2007年に現地を調査した際、ダムになっていた場所の堆積物を偶然見つけたと話す。「それで、25キロ下流にある先史時代に住民に放棄された喇家村を連想することにつながった。しかし 当時ずっと、この破滅的な洪水の証拠が何であるべきか、全く分からなかった」。
世界最古の麺が見つかった場所として知られる喇家遺跡は、中国のポンペイとも言われ、洞窟住居や多くの文化遺跡は大規模な地震によって地下に埋まっていた。
呉氏は、「2008年7月に突然、喇家遺跡で考古学者が発掘したいわゆる黒砂が、実は我々が調べていた突発的な洪水の堆積物なのではないかと思いついた」と語る。
「その後行った調査で推測が正しいことが裏付けられ、突発的な洪水による堆積物は最大20メートルの厚みがあり、黄河から最大50メートル高いことが示され、前例のない、破滅的な洪水だったことが示唆された」
呉教授と研究チームは論文で、喇家村を破壊したのと同じ地震がおそらく、川の上流をせき止めた土砂崩れを起こしていたと指摘している。その後1年経たないうちに、大きな被害をもたらす洪水が起きたという。
論文の共同執筆者である米パデュー大学のダリル・グレンジャー教授は、「洪水は現在の川の水面より38メートル高いところ にまで達した」と語った。「過去1万年で地球上で起きた最も大規模な洪水のひとつだ」。
洪水堆積物から喇家遺跡に残る地震による犠牲者の骨まで使った炭素年代測定により、大洪水が起きたのは紀元前1922年とみられることが分かった。「誤差は28年くらい」(グレンジャー教授)だという。
禹が夏王朝をうちたてるきっかけになったのが実際に大洪水だったとすれば、夏王朝の始まりは大洪水から数十年以内とみられ、紀元前1900年前後になる。
その場合、従来の説よりも200~300年歴史を下ることになる。しかし、歴史資料で禹の治世を裏付けるのは容易ではない。 1000年余り口述で伝えられた後、歴史書に登場するのは紀元前1000年前後からだからだ。
以下ソース
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-36994836