テレビゲーム「ドラゴンクエスト」が第1作発売から30周年を迎えた。世界でシリーズ累計6800万本を売り上げ、異世界を冒険するロールプレイングゲーム(RPG)を日本に定着させた。その歴史をRPGをキーワードにたどってみる。
ロールプレイの意味は「役割演技」。もともとRPGは海外で、サイコロなどを使うアナログゲームとして楽しまれてきた。数人の仲間がそれぞれ騎士や魔法使いなどの役割になりきり、ファンタジー世界を舞台にしたシナリオに基づいて、会話をしながら冒険する。
1980年代に入り、そんな遊びを一人で楽しめるようにしたコンピューター版RPGが米国で生まれる。日本でいち早く楽しんだ一人がドラクエの生みの親、堀井雄二さん。86年の第1作は、堀井さんのユーモラスなセリフに満ちた物語、鳥山明さんの愛らしいキャラクター、すぎやまこういちさんの勇壮な音楽という三位一体の魅力が口コミで伝わってヒット、新作のたびにファンを増やした。
遊び手が操る「勇者」が冒険の末に世界を救う物語は小説や映画以上に架空の世界への没入感を生み出し、80年代末には物語の可能性を広げる文化として、高橋源一郎さんら多くの知識人が言及する対象となっていく。
ドラクエの大成功によって、RPGには勇者になりきるゲームとの認識が根付いていく。とはいえ、遊び手は勇者という一つの役割を演じるにすぎず、ゲームは物語を読むように一本道で進む。より強い敵に挑むため、自らの能力を高めつつ金を稼いで強力な武器や防具を買う流れも、「作業」とまで呼ばれるようになってしまう。
堀井さんはかつて、「こつこつと遊んでいればなんとかなる。どこか日本人向きでしょう」とヒットの理由を語る一方、「物語は自由に遊ぶための一種のレール。寄り道していいんです」と話していた。そのため、新作のたびにコンピューター技術の向上を生かし、主人公が様々な職業や仲間を選べるようにしたり、カジノなど本筋以外の要素を加えてきたりした。
自らが望む役割で自由にドラクエを遊ぶ。本来のRPGらしさが実現したのは目下の最新作「Ⅹ」だ。ネットを介し、大勢の遊び手が同じ仮想空間に集うオンラインゲーム。自らのキャラクターを5種族と6職業から一つずつ選べるが、勇者にはなれず、「勇者の盟友」扱い。物語には次々と挿話が追加され、明確なゴールはない。そのせいか、世界救済をそっちのけに料理や釣りを極めたり、服のコーディネートに工夫をこらしたり、自分流の楽しみにいそしむ人も多い。
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