「買い物弱者」を支え半世紀 大森・ダイシン百貨店が8日閉店
2016年5月6日 13時53分
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こだわりの品ぞろえと送迎など地域に根差したサービスが全国でも話題になった、東京・JR大森駅近くの「ダイシン百貨店」(東京都大田区山王)が八日に閉店する。総合ディスカウントストアグループを率いる「ドンキホーテホールディングス」が買収し、六月末に「MEGA(メガ)ドン・キホーテ」として生まれ変わる予定。昭和の名残を伝える街の「顔」がなくなることを惜しむ声もある。 (荘加卓嗣)
閉店を控えた四月末、商品もまばらとなった売り場に、常連客が訪れていた。高齢層が目立つ。三十年来の常連という区内の女性(67)は「重いものも配送してくれるから、男手がないわが家では助かった。ダイシンの看板が無くなるのは寂しい」。他にも「食堂は安くてボリュームがあり、おなかいっぱいになった」(区職員)など周辺住民にはそれぞれ思い出がある。
「ダイシン」の名は、創業者の出身地・長野県にちなんだ「大きな信州」と「大きな信頼」、最寄り駅「大森」の音読みの三つの意味がかけられているという。創業者は戦後、リヤカーでリンゴを売り始め、その後、現在の店舗近くに青果店を構えた。扱う商品をメリヤスなどの衣料へと増やして東京五輪のあった一九六四年に百貨店として開業した。
細やかな品ぞろえが売りだった。みそは故郷の味を求める客のニーズに応えて百五十種類を扱った。トマトは常時十種類、漬物は三百種類。今では見掛けなくなったネズミ捕り器や歯磨き粉など、要望があれば生産中止にならない限り仕入れた。
最盛期には首都圏と長野県で七店舗を展開したが、今世紀初めに経営が悪化。二〇〇四年に大森の一店舗に集約した。それでも半径二キロ圏内に送迎バスを走らせ、登録した高齢者や妊婦ら「買い物弱者」には送料無料で商品を届けた。
塩沢紀行副店長(47)は「高齢者には家に閉じこもっていないで、外に出て買い物に来てほしかった。買い物すればみんな元気になるじゃないですか」と語る。
こうしたサービスや品ぞろえは注目を浴び、一時はテレビ番組が頻繁に取り上げた。一方で、経済合理性になじまず、高齢者向けのイメージと若者層の取り込みの両立も難しかった。一〇~一二年の改装後も状況は好転せず、ドンキに支援を要請。一六年一月期に八千万円の赤字を計上し、完全子会社化が決まった。
「みんないなくなっちゃうの?」。心配顔で尋ねるなじみ客もいるという。パートを含む従業員二百三十人は再生後も、そのまま残る。でも「店内配置など、詳細は未定」(ドンキ広報室)だ。塩沢さんは「ダイシンの看板がなくなるのは寂しいけど、強い地元意識の『ダイシン・イズム』は残したい」と話した。
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