――この件は原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)の仲介で和解し、
東電も事故との因果関係を認めたんですね。
「おやじの無念を晴らしてえ、無駄死にさせたくねえと思って訴えました。ようやく
和解して、賠償も出た。やっと東電も線香上げに来てくれる、謝罪してくれると
思ってたんだ。だけど違った。届いたのはファクスでした」
―― 除染は進んでいますか。
「田んぼは、やりました。大型のトラクターで40センチぐらい耕し、ゼオライト
をまいて、また耕す。その粒に土の放射能が吸着する、それが除染だ、つうから」
「だけど、おがしいっしょ。稲は放射能、吸わねくなるかもしんねえよ。でも
土にある絶対量は変わってねえんだから。汚染された土の上で、俺たち毎日、
朝から晩まで働いてんだよ。将来どうなんのかな、いつか影響出んじゃねえかな
って不安だらけだもん」
「国との交渉のときも、ひな壇に座ってる農水省の人に向かって何度も言いました。
あんたら除染の『除』って、どういう漢字書くか、わがってんのかって。たーだ
混ぜただけで、なんで除染になんのって。したら、みんな下向いて書類見てるんだ。
その通りだって、思ってんじゃねえの」
――汚染された表土を、はぎ取れないものですか。
「薄くはぎとれんなら、まだいがったの。だけど事故の翌月に、耕していいっていう
県の指示があったんだから。俺も半信半疑だったんだけど、みんな耕したんだ。
あそこで耕さねきゃよかったの。1年は作物つくんな、補償は出すって言えば、
いがったんだ。おっきな分かれ道だったんだ」
「機械で、はぎとんのは簡単です。だけど40センチも土とっちゃったら、今度は
ろくな作物できねえから。ふかふかのいい土、1センチつくんのに何十年もかかんだよ」
「8代目の俺の代で、田んぼを荒らすわけにいがねから続けてんだ。やんねで、
ぶん投げとけば、すぐに荒れ地になる。周りにも迷惑がかかる。それに、つくん
ねきゃあ賠償も出ねえし、収入もねえもん。生活できねえ」