高知生コン事件を伝えよう 大阪市大の宮本名誉教授ら調査
高知市の江ノ口川に汚水を流し続けていたパルプ工場の排水管に市民が生コンクリートを詰めて工場の操業を止めた「高知生コン事件」を後世に伝えようと、大阪市立大学の名誉教授らが書籍の出版に向け準備を進めている。4人が1日から高知市で調査に着手し、3日間の日程で事件の現場を訪問したり、関係者から当時の話を聴き取ったりする予定だ。
調査を進めているのは、大阪市立大学の宮本憲一名誉教授(環境経済学)と神奈川大学の安田常雄特任教授(日本現代史)ら。
宮本名誉教授は事件当時、公害問題の専門家として「高知生コン事件」公判に証人出廷した経験を持ち、「事件は日本の公害事件の中で非常に象徴的。水俣病など四大公害と並べて取り上げるべきもので、貴重な証言や資料を残していきたい」と話している。
今回の取材には出版社も同行。生コンクリートを実際に投入した吉村弘さん(68)や、「浦戸湾を守る会」会長として事件の中心人物だった故・山崎圭次さんの長男、広一郎さん(68)ら関係者3人に話を聞いた。
吉村さんは「山崎会長は一般住民への影響がなるだけ少ない所を(投入場所として)選んでいた。当時、浦戸湾の魚は変形していたが、今ではアカメもおり、魚もよく釣れる。山崎会長が言っていたのは『これか』と思っている」と振り返る。
「浦戸湾を守る会」の事務局長、田中正晴さん(63)は「山崎会長はどうしたら江ノ口川がきれいになるかをずっと考えていた。当時は一般市民もいろいろ調べており、そうした活動の上に『生コン事件』がある」などと証言した。
この日の調査を終え安田特任教授は「全国的にはあまり注目されてこなかったが、戦後日本の実像が現れている事件」と話していた。
今後、学術図書出版「すいれん舎」(東京都)の「戦後日本住民運動資料集成」の第10シリーズ「高知パルプ事件資料」(全8~9巻)として出版。主に図書館や大学向けに販売する。
■高知生コン事件■
高知市旭町3丁目にあったパルプ工場から大量の廃液が江ノ口川に流され、川や浦戸湾の環境汚染を引き起こした。これに対して1971年6月9日、「浦戸湾を守る会」のメンバーが、廃液排出を止めようと排水管に生コンなどを投入した。住民運動の高まりがきっかけとなったこの事件は、反公害運動の全国的な盛り上がりの中で注目を集めた。
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