日本の大手電機各社はこの十数年、家電や半導体部門で韓国や台湾、中国など新興国のメーカーの激しい追い上げを受け、人員整理や事業の統廃合などリストラを急いだ。ところが東芝は構造改革を先送りしてきた。
「なぜリストラが遅れたのか」。この日の会見で記者から質問された室町社長は「利益至上主義に走り、構造改革が後手に回った。もう少し早く対策を取っていれば、これほど大きな痛みになっていなかったかもしれない」と苦渋の表情を浮かべた。
東芝はこうしたリストラの結果、自己資本が大きく減少する。不正会計発覚前の15年3月末に自己資本は1兆840億円あった。それが16年3月末に4300億円になる。1年で6割の大幅減だ。
「完全に過去と決別した構造改革を実現するつもりだ。それが実現しなければ、東芝の再生の道筋は閉ざされる」
室町社長の言葉通り、東芝は土俵際に追い詰められた。その東芝の状況を、21日の株価急落が写し出していた。
だが、21日に東芝が発表したリストラ策は、子会社の米原子力大手ウェスチングハウスについては一切触れていない。
ウェスチングハウスは単体で巨額の損失を計上し、東芝は連結決算にその損失を反映していない。ウェスチングハウス単体で計上している資産である「のれん」に比べ、東芝が計上している資産である「のれん」は膨らんだままだ。この間のウェスチングハウスの経営悪化を反映していないからだ。その差は1613億円ある。
◇すばり「債務超過」を懸念する質問も
9月末の株主総会で、東芝の取締役の過半数が社外取締役になった。東芝は外部の目にさらされている。経営陣だけに通用した常識はもはや通らなくなっている。ウェスチングハウス単体で計上している損失は、東芝の連結決算に反映される可能性が十分にある。
ただ、それによって東芝の財布が底をついてしまう恐れがある。21日の記者会見でも、その点を突いた質問が出た。「東芝は今、東京証券取引所で特設注意市場銘柄になっている。万が一、東芝が債務超過になったときに、どうなるのか」
この質問者は直接聞かなかったが、債務超過になった時点で、上場が廃止される恐れはないのか、という疑問だ。東芝の財務担当役員は、この質問を「債務超過になったときに、銀行との融資条項に抵触しないか」という少し別の意味に受け取ったようだった。そして、「極端なことが起これば、条項に抵触することはある」と答えた。
このやりとりを聞いていた私を含め、多くの人は、東芝の債務超過は「極端なこと」ではなく、可能性のあるリスクだと受け止めたはずだ。東芝は再建に向けた苦難の道が始まる。
(終)