多くの担当者が計画に疑問を抱きつつ止められなかった。二〇二〇年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の旧建設計画で、文部科学省や日本スポーツ振興センター(JSC)は、工費がかさむとされたザハ・ハディド氏のデザインにこだわり白紙撤回に追い込まれた。安倍晋三首相のスピーチがきっかけで後戻りしにくくなったことが、本紙が入手した文科省第三者委員会の聴取録で浮かび上がった。
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「どんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから財政措置まで、二〇年東京大会は確実に実行されます」
アルゼンチン・ブエノスアイレスで一三年九月に開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会。安倍首相は英語のプレゼンテーションで招致を訴えた。巨大アーチが屋根を支える斬新なハディド氏のイメージ図も紹介された。
JSCは当初千三百億円の工費を見込んだが、ハディド氏案を試算すると三千億円超に。IOC総会の一カ月前、文科省に報告した。二週間余り前には、工費削減を検討するため、千二百億~三千四百億円程度の七案も伝えた。
聴取録からは担当者の危機感が伝わる。設計会社は「思い切ったことをやらないとだめ」、JSCは「二位案への変更は考えないのかと文科省に提案した」、文科省は「千三百億円程度に抑える作業を」-。
だが招致決定後、総会での首相の“公約”に縛られる。JSCの河野一郎理事長(当時)は、首相のプレゼンで「ハディド案をベースに置くことは決まったと思う」と振り返る。別のJSC幹部も「周りの雰囲気は変わっていった」と話した。その後、工費がかかるとされたアーチなどには手を付けず、机上の試算が繰り返された。
聴取録からは、硬直化した官僚組織もかいま見える。今月下旬に新計画の設計・施工業者が決まるのを前に、特集面で「先送りの内幕」を検証した。
<第三者委員会> 新国立競技場の建設計画が白紙撤回された経緯を検証するため、文部科学省が8月4日に設置。委員長の柏木昇東京大名誉教授や弁護士、元陸上選手ら6人が関係者約30人から聴取し、9月24日の報告書で「国家プロジェクトに対応できる組織体制になっていなかった」などと指摘した。下村博文文科相(当時)や河野一郎JSC理事長(同)らの責任にも言及した。
ソース
東京新聞:新国立 首相演説が撤回の足かせ 第三者委聴取録を本紙入手:社会(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201512/CK2015121002000126.html