幼い姉妹2人が焼死した1999年の東名高速飲酒事故から28日で16年が経過した。両親が起こした民事訴訟で認められ、命日ごとに賠償金の一部を支払う「定期金賠償」が今年から始まった。「娘が納得する使い道を」と話す井上保孝さん(65)、郁美さん(47)夫妻=千葉市=は、飲酒・薬物問題などの予防に取り組む団体などに、初回分約270万円を全額寄付するという。
「出所しても事件を忘れず、一生かけて償ってほしい」。夫妻は元運転手などに対し、賠償金の一部を一括ではなく命日ごとに15年間支払うよう求め提訴。刑事裁判では過失罪でしか裁けない法定刑の軽さや、前例踏襲で求刑通りにならない判決に悔しい思いをしたが、2003年の東京地裁の民事判決は主張をほぼくみ取った内容で、刑事で問えなかった運送会社の管理責任にも言及した。
「一般人の感覚に近い素晴らしい判決だった。やっと血の通った裁判を受けられた」と振り返る郁美さん。「賠償金は命の代償で、もらって喜ぶ親などいない。実際に支払うのは損保会社でも、元運転手には、娘が18歳になっていればこれだけ社会の役に立っていたかもしれないと感じてもらいたい」と強調する。
この16年間、夫妻は他の交通事故遺族らと連携し、飲酒などの悪質運転に対する法整備を求める一方、再発防止のため全国の学校や職場などで自分たちのつらい体験を話してきた。事故をきっかけに創設された刑法の危険運転致死傷罪は、昨年から自動車運転処罰法に移され、適用要件も緩和された。
保孝さんは「法律そのものは限界に近いところまでできたと思うが、運用に問題が残っている。遺族が署名活動などをしなければ動かない状況を変えていかないと」と指摘する。来年1月には海外赴任のため一家でオーストラリアに移るが、できる範囲で講演などは続けるという。夫妻は「天国の2人が『まだまだだよ』と言っている声が聞こえてきそう」と口をそろえた。(2015/11/30-04:39)
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